第128話 佳境
文字数 1,255文字
テンダは落下しながらも、空中でうまくバランスを取っていた。
水平に前足を伸ばし、着地にそなえて体勢を整える。
気合いを入れるテンダ。
その体が宙から床へストンと降り立った。
着地に乱れはない。
だがガラスの破片に足裏の表皮を
テンダは下りる際、床に散らばるガラスの破片の数々を見極めていたようだ。
猫だからって、誰にでもできる
優れた動体視力と冷静な判断力がなけりゃ、重症フラグは
猫は本来、自分の不利になるような弱みは見せない。その例にもれず、テンダはいつもどおりの笑顔をどうにか保っている。
だが移動するも歩みは遅く、肉球の下には血の足跡が出来上がっちまっている状態だ。
俺は正面にいる裏切者をキッと睨みつけた。
湧きあがる怒りを裏切者にぶつけるべく、相手との間合いを詰めようとする。
だが厄介なことに、相手は極細のパイプの上に乗っているので、跳び移るのは容易じゃない。
これまで相当難度の高い場所を行き来して、バランス感覚を鍛えてきたんだろう。
俺の問いに、そいつは答えない。
ぬけぬけとエサを盗み食ったあとのような澄まし顔で、俺たちを見下ろしている。
問いかけられて、そいつはニタリと不気味に微笑んだ。
ペロリと手を舐め、平然と言ってのける。
怒りなのかショックなのか、よくわからねぇ感情が胸の中でグルグルしてやがる。
こんな状況でハッキリと言えることは、コイツはもはや俺の知ってる謙虚で忠実な
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