第128話 佳境

文字数 1,255文字





ここからはボス視点に戻りまーす



引き続きヨロシクな!









 突然現れた猫に、背後から突き飛ばされたテンダ。



 ガラス片の散らばる床へと落下していく。



 




テンダァ~~~!




 テンダは落下しながらも、空中でうまくバランスを取っていた。



 水平に前足を伸ばし、着地にそなえて体勢を整える。



ぬうぅぅぅぅぅ!




 気合いを入れるテンダ。



 その体が宙から床へストンと降り立った。



うぐっ!




 着地に乱れはない。



 だがガラスの破片に足裏の表皮を(つらぬ)かれたか、テンダが(うめ)く。



テンダ! 無事かっ!?




はっはっはっ。余裕っす。

こんなのは、蚊に刺されたみてーなもんっすよ



さすがだな!

瞬時に判断して、大ケガになりそうなデカイ破片を回避するなんてよ




 テンダは下りる際、床に散らばるガラスの破片の数々を見極めていたようだ。



 猫だからって、誰にでもできる芸当(ワザ)じゃねぇ。



 優れた動体視力と冷静な判断力がなけりゃ、重症フラグは(まぬが)れねぇだろう。



副ボスの運動神経には、カナイマセンネ!



とにかく無事でよかった!



安堵しました!



致命傷にならなくてなによりだぜ



強がっても無駄だ!

浅からぬダメージには違いあるまい



……




 猫は本来、自分の不利になるような弱みは見せない。その例にもれず、テンダはいつもどおりの笑顔をどうにか保っている。



 だが移動するも歩みは遅く、肉球の下には血の足跡が出来上がっちまっている状態だ。



テメェのせいでテンダがケガしちまったじゃねぇか!

この裏切者がっ!




 俺は正面にいる裏切者をキッと睨みつけた。



 湧きあがる怒りを裏切者にぶつけるべく、相手との間合いを詰めようとする。



 だが厄介なことに、相手は極細のパイプの上に乗っているので、跳び移るのは容易じゃない。



クソッ……!

どんだけバランス感覚に優れてんだよ




 これまで相当難度の高い場所を行き来して、バランス感覚を鍛えてきたんだろう。



つーか、テメェはジロリ組の仲間だったはずだ!

なのに、なんでこんなマネをしやがった!?




 俺の問いに、そいつは答えない。



 ぬけぬけとエサを盗み食ったあとのような澄まし顔で、俺たちを見下ろしている。







まさか、おまえが裏切者だったとは……



アナタは、ジロリ組の偵察猫(レコねこ)だったハズ……!



なんで裏切ったのよ!?

一度裏切ったらもう組には戻れない決まりだっていうのに、アンタ本気なの!?




 問いかけられて、そいつはニタリと不気味に微笑んだ。



なぜ?

理由は決まってるじゃないですか


僕は仲間ではないからです




 ペロリと手を舐め、平然と言ってのける。



仲間ではない……だと?



ええ、そうです。

もとより僕に仲間など無用の長物(ちょうぶつ)

絆を育みたいとは微塵も思っていませんでした


僕は最初から、あなたがたを裏切るためにジロリ組に入ったのですよ



なんだとっ……!




 怒りなのかショックなのか、よくわからねぇ感情が胸の中でグルグルしてやがる。



 こんな状況でハッキリと言えることは、コイツはもはや俺の知ってる謙虚で忠実な偵察猫(レコねこ)じゃねぇってことだ……!






















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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