第50話 ワルどもの伝言

文字数 2,193文字







 突然現れた侵入者を前にして、番犬らしくナニワ犬・ダイゴローが吠えたてる。



ウチの客になにさらしとんじゃ! 




 野太い声は強烈や。

 せやけど、ヒモでつながれとるのはマイナスポイントや。



 ナニワ犬の首輪には太いヒモがガッチリ固定されていて、いくら動いたところでドロボー猫らには届かへん。



ヤツらはそれを見切っとるから、ビビりもせえへんわけやな



へへっ、犬なんか怖くねーよ


袋の中のメシはいただきだぜ




 ドロボー猫らは悪びれた様子もなく、買い物袋からドッグフードの袋だけを引っ張りだす。



っもう! 

とんだドロボー猫ね!



ママ~、大丈夫?



大丈夫よ。

でも買い物袋ごと買ったエサを盗られちゃったわ



ドッグフードを返せ~!




 少年は足元の小石を拾って、木の枝にいるドロボー猫らのほうへと投げつけた。



 カサッ!



 理不尽な衝撃を受けた葉っぱが不機嫌そうに葉を揺らす。



見事なファールや




 少年の投球は標的から離れた枝葉をかすめただけやった。



 当然のことながら猫どもはビビリもせえへんし、悪態までついてくる始末や。



ヘタクソが!



そんなに返してほしけりゃくれてやんよ!

袋なんぞ不要だからな


つーか人間の手垢のついたモノなんて、頼まれても貰う気になれねーわ



なんやドロボーの分際でエラソーに!



へっ、ドロボー扱いするなよ!

おれたちは、ねこねこファイアー組の幹部なんだぜ!



ちゅうことは、ねこねこファイアー組のドロボー幹部……!



ドロボーっていうんじゃねぇ!



こないしょーもないことするヤツらは、ねこねこファイアー組やったんやな!



そーだと思ったぜ。

ねこねこファイアー組のヤツらは態度が生意気だって有名だからな!



へっへっへっ!

おれ達のこと、よく知ってるじゃねぇか



だったらその生意気っぷりを()の当たりにするがいい!




 ねこねこファイアー組のヤツらは、枝にぶら下がっていた袋を前足でちょいとつつきだした。



 獲物を(もてあ)ぶように、買い物袋をわざと地面に落とす。



 不憫な買い物袋は真っ逆さまに落下して、ヨレヨレのタオルみたいにクシャッとなった。



あ! バッグが!



拾ってくるからここにいなさい




 母親は足音をダダダと鳴らし、植え込みのほうへ駆け寄っていく。



 猫の目にはちっとも早足には見えへんビミョーな速度や。せやけど、人間にしたらそこそこなんやろな。



 地面に落ちた袋を拾い上げると、木の枝にいる猫どもを警戒しながら子どもらのもとへ戻っていく。



エサ、返せよ~




 ふくれっ面の少年は、またしても小石をドロボー猫に向けて放り投げた。



パクられたのが不満なのはわかるけど、物投げたらアカンで




 まぁどっちみち、小石は見当違いの生垣を打っただけで終了や。



クッソ~!



もういいわよ。

あんな猫でも誰かの飼い猫だったらトラブルになりかねないし


騒ぎになっても困るから、(あきら)めて帰りましょ




 母親は子どもたちの手を取り、半ば引っ張るようにして歩き出しす。



ぅ~……



ワンコのゴハンがぁ~……




 子どもたちは何度か後ろを振り返ったけど、互いの距離がひらくとそれもやめて歩む速度を早めていった。



帰ってもうたかー




 親子の姿が曲がり角の奥へ消えると、ボスは視点を転じ、木の上のドロボー猫らを睨みつけた。



テメェらは人間相手にも横暴だな!




 インテリ兄さんも不愉快そうに同調する。



野良猫全体のマイナスイメージになりかねませんね



んなもんどーだっていいんだよ!



マイナスイメージなど知ったことか!



なんやコイツら、小高い場所にいるからってイキっとんな




 猫って生きモンは、高い所に登ってマウントとることもある。



 相手が並みの猫ならまだしも、ウチの親分に対抗したところで、むなしい上下アピールにしか見えへん。



それよりオマエらに、ウチのリーダーからの伝言がある。

よく聞け!



伝言?



俺はねこねこファイアー組からの伝言なんぞ興味はねぇ



いいから聞けっ!



はっはっはっ。

そう言われると、ますます耳を伏せてやりたくなるぜ



黙れクソが!

耳ひらいて一言逃さずしっかり聞かねぇと、後悔するぞ!



どーゆうこっちゃ?



いいか、オマエら。

夜更けまでに、ねこねこファイアー組がひらく〝闇の集会〟に来い!



闇の集会だと?



そうだ。

ねこねこファイアー組の集会に、オマエら全員を招待してやるって言ってるんだ!



ボス。

その集会に参加するのは危険です!


集会の参加者は、ことごとく闇討ちにされると聞き及んでおります!



オレも聞いたことあるっす


暗闇の中、多数のねこねこファイアー組のヤツらが待ち伏せしていて、問答無用にボコボコにされるとか



暗闇なら(ワイ)らには見えるからさほど問題あらへんけど、待ち伏せってやり方は卑怯やな



そんな邪悪なところ、近寄りたくないわねぇ



飼い猫には門限もあるので、深夜の出歩きはしたくないデス



こここ、怖すぎるっ……!




 怪しい集会への参加意欲のない猫たちは、行きたくない意思を露骨にさらけ出す。



その気持ち、ワイもわかるで



じゃあキンメも同じ考えなのね?



そりゃそうや!

待ち伏せとわかっててノコノコやって来る思うとるなんて、相当なアホちゃう?



アホだと!?



テメェ!

八つ裂きにされてぇのかっ!?



血の気多いなー。暴力反対や!


ワイはただ自分の率直な気持ちを言うただけで――





 ピコーン!





 そのときワイの頭に閃きが生まれた。



親分さん!



ん?



ワイは閃きました!




 自分で言うのもなんやけど、ええ案浮かんだで!




 何が閃いたかは、次回までのお楽しみや!





















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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