第168話 みんなの願い

文字数 1,445文字







 ジロリ組vsねこねこファイアー組。



 長きにわたる戦いがいま終わろうとしている。







 だが戦いに終止符を打とうと考えているのは、俺だ。



 幕を下ろす前に、仲間の意見も聞いておくのがスジってもんだろう。



俺は、ねこねこファイアー組との戦いをこれで終わりにしようと思う


みんな、異存はないか?



ボスの決定に従います



もちろんないわよぉ。

これでようやく乙女モードに戻れるわぁ



乙女モードて……



はっはっはっ。

オレはもうクタクタで、戦う緊張感も薄れちまったっすよ



長い間、戦いましたからね……



もう争いはコリゴリデス



よし、満場一致で決まりだな!

縄張り争いは終了だ!








 俺は改めて紅に視線を向けて問いかける。



おい、紅。

負けたのは、ねこねこファイアー組ってことで文句ねぇだろ?



異存はない



フフン、ついにテメェも敗北を受け入れたか。

だったら話は早い


知ってるとは思うが、俺の組の(おきて)では敗者は去るものと決まっている



ウム……




 ちなみに、このルールは猫社会全体おいてもそう変わりはない。



 去るか、従うか――



 大半はその二択に甘んじるしかない。



わかっているとは思うが、ねこねこファイアー組は今日で解散してもらうぞ



解散!?


みんなバラバラ、ニャウ!?



そうだ。

オメェらは全員、追放処分になるんだ


この縄張り一帯から消えてもらう。

戦いを挑む以上、覚悟はしていたはずだ



……わかっている



ふえぇぇぇ~!

ここから出て行かなきゃならないなんて……っ


ふにゅうぅぅぅ~!

路頭(ろとう)に迷う、ニャウ……っ



こればかりは、どうしようもないわね……




 たちまち紅ファミリーに悲壮感が漂いはじめる。



そう悲観するな。

ザコや幹部も含めて、ねこねこファイアー組のヤツらの命は助けてやる


みんなで遠いところで暮らしもよし。

ひっそり山に(こも)るもよし。

好きにしろ



みんなを助けてもらえるのがせめてもの救いだ


だが、本当にそれでいいのか?

ボスであるおれに、トドメを刺さなくても……



いいさ、別に。

まさか俺を恨んで報復なんてしてこねぇだろ?



その気はない



んじゃ、(ほうむ)る理由もねぇな!




 俺と紅のやり取りをそばで聞いていたメデアとイソルダが、ようやく安堵(あんど)したようだ。



 逆立っていた毛が元に戻ってペタンとなる。



よかったぁ!

じゃあ、もうみんなでケンカしなくて済むんだ!


平和、ニャウ!



寛大(かんだい)な処置をしてくださって、ありがとうございます……!




 俺に感謝するイザベラ。その表情からは暗い影が消えていた。



 イザベラは(うる)ませた瞳を紅に向けると、夫のそのそばに歩み寄る。



あなた……!



……イザベラ、すまない……。

苦労ばかりかけて……



いいの。

あなたが生きていてさえくれたら……




 イザベラは倒れた紅に顔を寄せ、(ほお)ずりをする。



 それから紅の頬の傷を舌でゆっくりと舐めた。



おれもだよ、イザベラ。

危うくかけがえのないものを失うところだった……




 妻を愛おしげに見つめる紅。



 それを苦笑いで揶揄(やゆ)する子どもたち。



また夫婦のイチャラブが始まったよ


暑苦しい、ニャウ



好きにさせてやれよ。

ケンカするよりマシだろ



まあね


仲がいいのはイイコト、ニャウ



俺たちもみんな仲がよけりゃ、争いなんて起こらなかったんだろうけどな……




 タメ息まじりにつぶやいて、俺は視線を上へ動かした。



 廃工場の()ちた天井には、どうしようもないほど暗い闇がかかっている。



 けれども壊れた屋根の隙間から見える夜空には、煌々(こうこう)と冴え渡る月がかかっていた……。




























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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