第135話 孤独と怒り②
文字数 1,586文字
偵察猫に首を噛まれて、テンダの体がぐらりと傾く。
本来のテンダなら、急所を突かれはしなかったはずだ。
けれどもテンダは無抵抗だった。
むしろ相手が噛みつきやすいようやや身を屈め、攻撃を甘んじて受けようと覚悟していたかのように――。
大声で叫ぶと、心配して視線を向けた仲間たちから次々に悲鳴があがる。
ガラクタの上に倒れこむテンダ。
首筋に噛みついたままの偵察猫がその体にのしかかる。
圧迫された体から悲鳴が
苦痛に襲われながらも、テンダは声をふり絞ってみんなに答えた。
身を乗りだした矢先――
テンダは慌てたような口調で止めにかかる。
テンダは消えそうな声でかろうじて答えて、まばたきをした。
見る者に安心感を与えるように、ゆっくりと――。
それから視線をレコのほうへと移す。
弟に呼びかけると、苦悶の表情にふっと柔らかさが浮かびあがる。
首を噛みつかれながらも、テンダは穏やかだった。
対する偵察猫は、唸り声をあげたままテンダの首に喰らいついている。
ふいに攻撃の手がゆるんだ。
偵察猫はテンダの首筋から口を離し、すばやく体を起き上がらせる。
片手を突き出し、テンダの顔面に拳を打ちこむ。
テンダはそれを真正面から受け止める。
両者の拳がバシッとぶつかり合った。
偵察猫は再びテンダの首を狙って襲いかかった。
閃光が走るような早業だ。
あっという間にテンダの首の側面にかじりつき、強力な牙をガッと突き立てる。
テンダは
偵察猫は、頭に血が昇った顔をテンダに向けてわめき立てた。
テンダは弟に笑いかけた。
けれども、その敵意はたちのぼる煙のように消え去る気配はない。
偵察猫は怒りで我を失って、隙は多いが危険な状態だ。
俺の指示に、テンダは答えなかった。
テンダは片腕を上げて、五指の内側にひそむ凶器をさらけ出す。
その手はわずかに震えていた。
しかしひとたび拳を振るえば、風を巻くような勢いで偵察猫のもとへ迫っていく。
シュッ!
一瞬のうちに事態が急変した。
テンダの爪が偵察猫の首に深々と突き刺さっていた。
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