第74話 潜む敵
文字数 1,937文字
物陰に敵の気配アリ!
廃工場の敷地内にまばらに立つ柱やブロック塀の後ろに猫が
俺の向かう先に隠れている猫の数は、ふたり。その距離は近い。
まずは壁裏にいるヤツに跳びかかって、一撃必殺・噛みつき攻撃を喰らわせてやる!
首根をガプッと噛まれ、モブらしき猫はその場に伏せた。
月の光も届かない物陰に倒れて顔形はあやふやだが、ぶっ倒れて戦意喪失したのは明らかだ。
反対側の柱に向かってジャーーーンプ!
その背後に隠れている猫めがけて、拳をくり出す!
猫パンチを顔面に浴びて、敵は後方にふっ飛んだ。
地に転がり、それから頭をどうにか上げて、苦し気な口調で問いかけてくる。
かすれ気味の声で言い尽くすと、モブネコはその場にバタンと横倒れた。
ついうれしくなっちまうが、俺は元来平和主義だ。
こんなケンカはしないほうがいいに決まってる――。
そう内心では思ってるが、戦いを避けるにはいかねぇ状況だもんな。
ヨウは荒すさんだ廃工場の外壁のほうへ顔を向けた。
それを見てインテリが小声で訂正する。
言うや否や、インテリは暗闇の中へ跳びこんでいく。
敵に向かって、インテリは攻撃を仕掛ける。
敵の悲鳴。即座に逃げ去る足音。
インテリは笑みを浮かべた顔を茂みからのぞかせる。
怪訝そうな表情のインテリ。
警戒の糸をゆるめずに草むらからおれたちのほうへ移動するが……
そのときだった。
ただならぬ気配がついに動き出す――!
叫んだときにはもう遅い。
影はすでに躍動していた。
迅速に宙を舞い、仲間に跳びかかる。
体当たりを喰らって、インテリの体が敷地内の隅へと投げ出される。
バシャアァッと暗闇で水が跳ねた。
よりにもよってインテリは、足場の悪そうな水溜まりに突っ込んじまっている。
うわ、ひっでぇーな……。
全身、泥水がかかってぐちゃぐちゃだ。
整った容姿は見るも無残に乱れまくって、白い毛は部分的に猫らしからぬ色合いに変わっちまっている。
抜け抜けと言ってくれるぜ。
相手は俺たちを見下ろしながら、余裕綽々の笑みを浮かべてしゃべってやがる。
インテリを襲った、ただならぬ影――それがこの猫だ。
ボス猫・紅は、夜風を払いのける勢いで宣言する。
俺はヤツに対抗すべく、近くのドラム缶の上に跳び乗った。
相手を睨みつけながら、声高に名乗りを上げる。
ビュゥゥゥゥゥと風が起こる。
対峙する俺たちのあいだに、波乱を感じさせるような砂煙が舞った。
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