第74話 潜む敵

文字数 1,937文字




 

 物陰に敵の気配アリ!



 廃工場の敷地内にまばらに立つ柱やブロック塀の後ろに猫が(ひそ)んでやがる。



そこに隠れてるのはお見通しだ!




 俺の向かう先に隠れている猫の数は、ふたり。その距離は近い。



 まずは壁裏にいるヤツに跳びかかって、一撃必殺・噛みつき攻撃を喰らわせてやる!




よけられるもんならよけてみろ!



ウギャアッ!




 首根をガプッと噛まれ、モブらしき猫はその場に伏せた。



 月の光も届かない物陰に倒れて顔形はあやふやだが、ぶっ倒れて戦意喪失したのは明らかだ。



よし、キマッたな!


次行くぞー!




 反対側の柱に向かってジャーーーンプ!



 その背後に隠れている猫めがけて、拳をくり出す!



俺の猫パンチは失神レベルだぜー!



フギャッ!




 猫パンチを顔面に浴びて、敵は後方にふっ飛んだ。



 地に転がり、それから頭をどうにか上げて、苦し気な口調で問いかけてくる。



な、なぜバレた……!?



ハッ! 

さんざんゲスな殺気まき散らしておいてよく言うぜ


オメェらはステルススキルが低すぎて、闇に溶けきれてねぇんだよ



ク、クソォ~!

ジロリ組のボスがこれほど強いとはっ


所詮、おれたちモブの敵う相手じゃなかったか……!




 かすれ気味の声で言い尽くすと、モブネコはその場にバタンと横倒れた。



気配バレしたからって、一気にふたりも倒すなんてさすがね



またたく間に敵を仕留める――

まさに疾風しっぷうの悪魔』の名のとおりデス



へへっ♪




 ついうれしくなっちまうが、俺は元来平和主義だ。



 こんなケンカはしないほうがいいに決まってる――。



 そう内心では思ってるが、戦いを避けるにはいかねぇ状況だもんな。


 

ほら、ヨウ。アタシたちもイイトコ見せるわよ。

早く敵さがして!



敵……Ummうーん…………


ペロン……ペロン……



毛づくろいばかりしてんじゃないわよっ!



デスガ、気配を探るのって結構難しいデス


なんとなくあのへんカナ~、くらいならわかるんデスガ



ふぅん、それってどのへん?



あの壁の角になっているあたり……デスカネ?




 ヨウは荒すさんだ廃工場の外壁のほうへ顔を向けた。



 それを見てインテリが小声で訂正する。



惜しいな。

敵がいるのはその壁の手前の草むらだ




 言うや否や、インテリは暗闇の中へ跳びこんでいく。



ハァッ!




 穂の長い草が邪魔をして見えないが、そこにはまぎれもなく猫がいた。



 敵に向かって、インテリは攻撃を仕掛ける。



フギャッ!




 敵の悲鳴。即座に逃げ去る足音。



よくやったな、インテリ!




 インテリは笑みを浮かべた顔を茂みからのぞかせる。



相手はひとりだけだったので。

念のため、敵が襲いかかってくる前に撃退しておきました



Wowワオ! 

敵はそっちに隠れていたんデスネ!



あっという間に敵を追っ払うなんて、インテリちゃんは頭もイイけど文武両道ね



これで建物の外にいる潜伏猫は、すべて片づけたように思われますが



いや――


まだ何かが息をひそめてやがる



まだ……何かが?




 怪訝けげんそうな表情のインテリ。



 警戒の糸をゆるめずに草むらからおれたちのほうへ移動するが……




 そのときだった。




 ただならぬ気配・・・・・・・がついに動き出す――!



インテリ! 

逃げろっ!




 叫んだときにはもう遅い。



 影はすでに躍動していた。



 迅速に宙を舞い、仲間に跳びかかる。



ぐふっ……!




 体当たりを喰らって、インテリの体が敷地内のすみへと投げ出される。



 バシャアァッと暗闇で水が跳ねた。

 


 よりにもよってインテリは、足場の悪そうな水溜まりに突っ込んじまっている。



インテリ、無事かっ!?



ええ、どうにか……




 うわ、ひっでぇーな……。



 全身、泥水がかかってぐちゃぐちゃだ。



 整った容姿は見るも無残に乱れまくって、白い毛は部分的に猫らしからぬ色合いに変わっちまっている。



すんでのところでうまくかわしたようだな


一撃で仕留めるつもりだったが、それをさせぬのはさすがジロリ組といったところか




 抜け抜けと言ってくれるぜ。



 相手は俺たちを見下ろしながら、余裕綽々の笑みを浮かべてしゃべってやがる。



 インテリを襲った、ただならぬ影――それがこの猫だ。



インテリほどの猫が不意を突かれるとはな


もしやオメェは、ここのボス猫か!?



フッ、ようやく気づいたか



え~~~っ!

ボス猫ぉ!?



いきなりボスの登場デスカ!?



我が名はくれない! 

貴様らを葬る者の名を心に刻むがいい!




 ボス猫・紅は、夜風を払いのける勢いで宣言する。



フン、やっぱりな!

テメェがねこねこファイアー組のボスだったか




 俺はヤツに対抗すべく、近くのドラム缶の上に跳び乗った。



 相手を睨みつけながら、声高に名乗りを上げる。



俺はジロリ組のボス・プルート!


テメェを地獄に送る者の名だ! 

憶えとけっ!




 ビュゥゥゥゥゥと風が起こる。



 対峙する俺たちのあいだに、波乱を感じさせるような砂煙が舞った。






















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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