第102話 乙女のチカラ

文字数 2,062文字








ハアァァァァァァァッ!




 リャクのもとへ突進するミミ。



 やんのかステップに(ひる)んでいたリャクだったが……



うおぉぉぉぉぉ! 

ナメるなぁぁぁぁぁ!




 一転して目つきが変わるほど逆上しだした。



赤鼻とかバカにされまくって、相当頭にきたみてぇだな



オマエなんか、一撃で(ほうむ)ってやんよっ!




 リャクは足場を蹴って、ミミに跳びかかる。



やれるもんなら、やってみなっ!




 ミミは膝をスッと伸ばし、仁王立(におうだ)ちの構えをとった。



喰らえっ、コノヤロォ!




 突き出されるリャクの拳。



 しかしミミは()けようともしない。



 それどころか――



ハァァァァァァァ――ッ


フンッ!




 胸を張って、リャクの拳を真正面から受け止める。



なにぃ!?

おれの攻撃を受け止めやがった……!



しょぼいパンチだねぇ。

それじゃ蚊も仕留められないよ



バカにすんな! 

クソがっ!




 リャクは頭に血をのぼらせ、猫パンチを連打する。




 バシバシバシバシッ!




 ミミの腹に何発もの攻撃が打ちこまれるが……



あら、もうおしまい?

ヘタクソなマッサージねぇ



ウソだろ!?

ノーダメージだなんて……!

どんだけ打たれ強いんだよ!



ダテに肉ついてないんだよ!

そんな攻撃じゃ、ちっとも響かないね!




 ミミは胸をぶるんと振って、得意げにアゴをそらした。

 


ナメやがってぇ!

次こそおれの拳の威力をテメェの全身に(とどろ)かせてやるぜっ!




 リャクは湾曲する凶器をさらけ出し、ムキになって猫パンチをくり出した。



 鋭利な鉤爪(かぎづめ)がミミを八つ裂きにしようと襲いかかる。



死ネェェェェェェェッ!



フンッ!




 ミミは、またしてもよけない。



 まばたきもせず、カッと瞳を見開いたままだ。



おそらく動体視力のいいミミは、眼前に展開される攻撃の大半を見切っているに違いねぇ



ほぉ~




 俺の思ったとおり、ミミはリャクの拳を片手ひとつでガシッと受け止めた。



マジかっ!?

またしても、おれの攻撃を止めやがった――!



そんなカサカサに干からびた爪で攻撃したって無駄さ!

この麗しのボディは傷つけられはしないよっ!


もっと爪の手入れを徹底することだねっ!




 言って、リャクの手をピシャリッと払いのける。



チキショー! 

メス猫のくせに、なんてパワーだ……!



悔しげに(うめ)いたところでどうにもならねぇぞ。

ミミのほうがオメェより体長も肉づきも上回ってるからな



はっはっはっ、そうっすね。

まるで母猫に逆らう子猫みたいっす



今度はアタシからいくよ!




 ミミは鋭く拳を突き出す。



 リャクの額のあたりを狙って、白い手が二度、三度閃く。



くっ……!




 そのすべてをリャクは身を(よじ)ってどうにか回避するが……



よけることに必死になってるから(すき)だらけだねぇ


そんなに好機を与えてくれるなら――



ニヤリ!



飼い主ニンゲンをも幸福・・へと(いざな)う、必殺の腹乗りアタックを喰らうがいいっ!



腹乗りアタックだとっ!?




 ミミはリャクに突撃をかました。



ハアァッ!




 (たが)いの体が空中でぶつかり合う。







その首、イタダキッ!




 ミミはリャクに跳びかかると同時に、その首筋に喰らいついた。



ぐはぁっ!



見事、ミミの噛みつき攻撃がキマッたようだな!




 薄っすらとリャクの首回りが乱れているのがわかる。

 紅に噛まれたミミのように、血が(にじ)んでいるようだ。



 さらにリャクのダメージは募る。



 衝突の勢いに押されて、リャクの体が固い床の上に押し倒されると――



 それを狙っていたかのように、ミミの体が跳ねた。



腹乗りアターーック!



マッ――マジか!?

やめ……っ!




 やめろと言いたかったのかもしれないが、もう遅い。



 リャクの腹の上に、肉厚なミミの体がドスンと降った。



ぐふぅ……!




 重量級のボディプレス。



 見るからにエグイ状況だ。



 リャクはジタバタもがいて抵抗するが、ミミはしっかり首と体を押さえこんで容易に離れない。



チ、チクショォ……ッッ!




 無様(ぶざま)に命を噛み砕かれる屈辱(くつじょく)にむせんでいると――



退けーっ!




 横から紅が突進してきた。



あともう少しのところだったのに……!

とんだお邪魔虫だねぇ!




 ミミは跳び退()き、リャクの体から離れる。



……ハァハァ……、

痛ぇな、クソッ……! 




 リャクはすぐには起き上がれず、腹這いの姿勢だ。



 ミミのように首全体が血に染まって、毛はバサバサになっている。



リャク!

止まるな! 立て!




 紅はリャクを叱咤(しった)すると、視線をミミに固定したまま身構えた。



おのれ、よくもやってくれたな!

許さんぞ!




 味方に手傷を負わせたミミのもとへ跳びかかろうとする。



 だが、突如割って入った(はば)まれた。



困るなぁ。

まだオレを倒してもいねぇのに、いきなり相手を変えるだなんてズルいぜ



貴様との戦いは退屈だったのでな。

どうしても、というのなら先に葬ってやってもいいが――




 紅の(とが)ったまなざしが俺に向けられる。



そんなに退屈だったなら、俺とテンダのふたりがかりで遊んでやるよ


ただし、葬られるのはテメェのほうだ!




























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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