第72話 突入

文字数 1,915文字



今回は下ネタ表現があります。

お食事中の方、下ネタを好まない方はお気をつけください





 新入りや熊介くますけらと別れてからしばらく歩きつづけ――



 野原の奥に、ようやくそれらしき建物を発見した。



 細い月明かりが、砂地の上を黒々と占拠するかたまりを照らしている。



これがねこねこファイアー組の廃工場(アジト)か。

かなりデカいな



暗くて不気味やわー。

化け猫が棲みついてそうな場所やないか



化け猫、オソロシイデス……



実際に中にはびこっているのはワル猫どもだけどねぇ



いいや、はびこってるのは中だけじゃねぇみたいだぜ


無粋ぶすいな殺気がダダれしてやがる



敵は気配を隠すのに長けていると噂に聞いたことがあります


油断は禁物です。

どうかお気をつけください



しかしこの程度の隠密(ステルス)スキルで俺たちの不意を突こうなどとは、ずいぶん低く見積もられたモンだぜ




 廃工場の入り口付近へ接近すると、後ろにいたキンメとミミが俺のそばへ来て、キョロキョロしながら辺りの様子をうかがう。



ねぇ、闇の集会って敵が待ち伏せしてるんでしょ?


まさか地面にトラバサミでも仕掛けられてるのかしら?



さすがにトラバサミを仕掛けるんは人間だけやろ



はっはっはっ。

あんなモンに挟まれたら、さすがのおれでもへたばっちまうぜ!




 テンダが豪快に笑い飛ばすと、ふいにキンメが鼻をヒクヒクさせた。



それよりなんか変なニオイせえへん?



あー、鼻づまり気味のキンメでも気づいちまったか



ちゅうことは、この変なニオイの正体は――!



ションベンだ


真っ先にその話題に触れるのは好ましくなかったから、口にしなかったんだが……




 細々と説明するのがダルくなった俺の胸中を察して、インテリが動いた。



 顔を廃工場の入り口に向けて示してみせる。



よく見ろ、キンメ。

入り口の地面が湿っているだろう?


おそらくあの湿り気を帯びた砂には、大量の猫の小便がかかっている



にゃんやて!



ソレのせいで、さっきからかなりオシッコ臭いデス



嫌なニオイを嗅がされると、開幕から戦う気力が失せるわねぇ



敵のションベントラップか……


踏んだら最後、クセェだけじゃなく、手足にニオイがついて気配バレにもなるという狡猾こうかつな罠だな!



踏んだらトラウマ級っすね



しかし、あんな手の込んだモンをどーやって仕込んだんだか



おそらくは、手下どもを一か所に集めて放尿させたのでしょう


いやらしい手口ですが、悪臭は猫にとって命とりという弱みを突いた策略ともいえます



やることえげつないわー



ボス、どうなさいますか?



どうって言われても、踏まねぇように移動するしかねーだろ



見る限り、Sトラップの左右はコンクリートの壁のようです


コンクリは硬いので爪が刺さりにくいですが、壁が崩れてボロボロなので登っていけなくはないかと



いや、あんなもん跳び越えちまえばいい



なるほど。

たしかにジャンプして跳び越えれば回避は可能ですが……



どうした?

問題でもあるのか?



いえ……。

少々気になることがありますが、ただの気のせいでしょう


では、手始めに私が跳んでみせます



おう、頼んだぜ!



オシッコ踏まないようにね!



幹部になら、きっとデキマス!

デキナカッタラ、臭いデス!



ふたりとも、心のどこかで踏まへんかなって期待しとるやろ?



してないわよぉ



ノーノー、臭いのはカンベンしてほしいだけデス



なんや、ひそかに期待しとったんはワイだけか?



うるさいぞ、キンメ。

気が散るから黙っていてくれ



ウヒ。

すんまへん……!




 インテリはむっつりしたまま前へ出ると、砂地を蹴って走り出した。



ハァッ!




 インテリの体が鋭い放物線を描いてしなやかに跳び上がる。



 手足を水平に伸ばし、より細長さを増した全身が、軽やかに地表を跳び越えて数メートル先の地面へ着地した。



よし!








なめらかで無駄のない動き。

さすが兄さんや!



ファンタスティック!



うん、ステキ♪



フッ




 かすかな笑みで称賛に答えるインテリ。



 しかしすぐさま沈着なまなざしを周囲に向け、くまなく観察しはじめる。



おーい、どうだ?



ざっと見る限り、異常はありません



オメェが言うなら、間違いねぇな。

んじゃ行くぞ、みんな!




ジャンプなら結構得意よぉ。

まかせて~



毛を汚さないようにしないとイケマセンネ



はっはっはっ。

おれの跳躍力を見せてやる



踏んだら恥やな




 キンメは不安そうだが、ここにいるメンバー全員運動神経は悪くない。むしろいいほうだ。



 よほどのことがない限り、ジャンプでしくじるなどまずありえねぇ。



 だから心配のカケラも無用のはずだが……




 なぜだか、いい予感がしねぇぞ?




まさかとは思うが、誰かがトラップに引っかかる……なんてことはねぇよな?




 胸中に不安が(くす)ぶる中、俺たちは横一列に並ぶと、砂粒まじりの大地を駆け出した。




















ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色