第85話 窮地

文字数 1,535文字




 落下していくヨウを見つめながら、俺は無我夢中で叫ぶ。



ヨウーーーーーーーッ!




 ガラス片の散りばめられた床は、仲間の命を奪おうとするかのように急激な速さでヨウの体を吸い寄せていた。



 ドサッ――!



 突如、響く落下音。胸を掻きむしるように広がっていく。



ヨウ!

死なないでくれ……!




 無事を祈りつつ、俺はヨウの様子を見るため金属板から身を乗りだそうとする。



 すると――



 そのわずかな隙を狙って、トウとリャクが背後から襲いかかってきた。



ヒョォォォォォォッ!



ウラァァァァァァッ!




 トウはジャンピングアタックをくり出し、リャクは猫パンチを放つ。



 振り返った俺の視界に、それぞれの攻撃が猛スピードで迫り来る。



邪魔だっ!




 俺は即座に地を蹴り、軽やかに跳んでかわす。



 むろん避けるだけじゃなく、反撃の一手も忘れない。



 近づいてこられると邪魔なので、牽制(けんせい)の連続パンチを放つ。



これ以上近寄ったら、穴が開くまでボコボコにしてやるぞ!



クッ……!



手が出せねぇ……!




 敵どもが怯んだところで、おれはふたたびヨウのほうへと向き直った。



 すでにヨウの体は床に叩きつけられている。



ゲッ!

マジかっ……!?




 ヨウの姿勢は、力尽きた猫のように横向きだった。



 弱々しいその姿になおさら不安を駆り立てられる。



ヨウ、頼む……!

返事をしてくれ!




 俺の願いに応えるように、ヨウのかすれた声を絞り出した。



……大丈夫……デス……



おぉ! 生きてたか!



よかった!

死んでなかったのね!



無事でなによりだ




 ヨウはフラフラしながらも、立ち上がろうと前足を立てる。



先に倒れていた、猫のおかげで……



先に倒れていた、猫……?




 遠目なのではっきりしないが、ヨウの体の下に黒っぽいものが見える。



あれは……、

さっきボスがふっ飛ばした雑魚猫では?



あ、なるほど!




 ヨウが細い管から転げ落ちたとき、たまたまその猫がいた場所に落下したらしい。



 気絶していた猫が下敷きになってくれたおかげで、ヨウはガラス片の被害を受けずに済んだ、というわけだ。



フンッ、運のいいヤツめ


だが、次はそうはいかんぞ!




 くれないは次なるターゲット、ミミに襲いかかる。



させるかよ!




 俺は拳を突き出しながら跳躍し、細い管の上に飛び移る。



 足場は狭く不安定だが、ビビッてられねぇ。



 猛ダッシュでパイプの上を駆け抜け、ミミと紅のあいだに躍り出る。




 シュタ!







これ以上仲間に手出しはさせねぇ!



フッ、貴様が相手になるのか。

よかろう


仲間を葬るよりも先に、貴様を地獄送りにしてくれる!



俺は地獄になんて行かねーよ!

行くなら天国に決まってる!



ほざけっ!




 俺を威嚇し、牙を剥きだす紅。



 いつ相手が跳びかかってきてもおかしくねぇ状態だ。



ミミ、オメェはインテリの援護を頼む!



わかったわ!




 ミミはインテリのほうへ駆けていく。



 俺は正面にいる紅と睨み合う。



 後ろを向いていないのでハッキリしたことはわからないが、ミミは途中でリャクに出くわしたらしく、言い合いが始まった。



飼い猫ごときが野良猫様にケンカを売ろうなんて、無謀の極みと気づかねーのか?



あなた、バカなの?

無謀かどうかは戦ってみなくちゃわからないでしょ


人に飼われてる猫だって、アタシみたいに優秀な猫は大勢いるんだからねぇ



うっせぇメス猫だな


まずはその目ざわりな首輪をズタズタに引き裂いてやんよ!



目ざわり? 

フン、だったら見なければいいじゃない


別にあなたのために身に着けてるわけじゃないんだから!



視界に入って迷惑なんだよっ!



あ~ら。

もしかして羨ましいのかしら?


ウフフフフ!

ひもじい野良猫さんは、心にゆとりがなさそうだもんねぇ



――殺す! 

マジ、ぶっ殺す!


首輪だけじゃなく、オマエの体もズタズタに引き裂いてやるっ!




 リャクは威嚇とともにミミに跳びかかった。

























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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