第177話 策士の導き②

文字数 1,435文字







 不満をこぼしながら、ウチは来た道を戻っていく。



ぷにゃ~んぬ!


邪険(じゃけん)に扱われるとは心外にゃも








 すると――



あ、あの……!




 背後に動きアリにゃ。



 イザベラが(あせ)り気味に呼びかけてきた。



待ってください!

失礼な態度をとってしまったことは謝ります!


ですからわたしたちに……、

あなたの教えを聞かせてくれませんか?



お母さんっ!


異議アリ、ニャウ!



どういうつもりだ、イザベラ!

なぜこの猫が油断のならぬ策士と知っていながら引き留めるのだ!?




 ピリつく家族一同。



 イザベラは困惑顔を向けつつも、落ち着いた口調で言い返す。



相手に(たくら)みがあるか(いな)かは、話を聞けばわかることでしょう?


敵だったマウティスさんがわざわざここへ来てくださったのだから、話だけでも聞いてみるべきだと思わない?



しかし……



ふにゅ……


フニャウ……




 納得しきれていない様子の(くれない)と子どもたち。



 ウチはそれを横目で見ながら、冷ややかに笑う。



にゅふふ。奥さんは話がわかるにゃねぇ。

さすがねこねこファイアー組の知恵袋にゃ


この闇の集会に張り(めぐ)らされた仕掛けの数々も見事だったにゃよ



いえ、お恥ずかしい限りです……



トラップはすべて奥さんが考えたのにゃ?



はい。

ガラス床の発案者はトウとリャクですけど、あとはわたしが……




 言って、恥ずかしそうにうつむくイザベラ。



にゃるほどにゃ~




 この控えめな奥さんが、あの糞尿まみれのトラップをどんな心境で考えたのか聞いてみたいけれど、いまはそれどころじゃないから触れないでおくにゃ。



しかし、戦いとは無情なものにゃねぇ




 ウチは紅ファミリーのほうへ向き直りながら、得意顔で語りだす。



ねこねこファイアー組は敗北し、ひいては追放処分


築きあげた縄張りも手放すことになり、組も解散で一家離散は必定――


一夜にして、まさに急転直下にゃ!



フン、せせら笑いたければ好きにしろっ



にゃはは!

ボスにゃんの力を(あなど)った(むく)いにゃも!



くっ……!



ふぬ……っ


ふぬぬ……っ




 悔しくてたまらんという感じのボスとその子どもたち。







 ちなみに、猫の世界にもイジメはあるにゃ。



 ウチがいまやっているのが、立場の強い者が弱い者を(しいた)げる〝敗者イジメ〟ってところかにゃ。



 でも、紅には不意な襲撃で追いかけまわされたりパンチされたりしたにゃも。



にゅふふ!

これくらいの屈辱(くつじょく)は味わってもらわないとにゃ~♪



ぐぬぬぬぬ……っ!



いまさらいきり立っても無駄にゃよ


すでに勝敗は決定してるにゃ。

往生際(おうじょうぎわ)が悪いだけにゃも!



ぐっ……!



さて、一定の満足感を得たことだし、話を戻すかにゃ


敗北したとはいえ、相手が天下無双の強敵だったのだから、負けても恥ではないと思うにゃよ


敗れたものは仕方にゃし、大事なことは前に進むことにゃ!




 ウチの言葉に同意したように、イザベラが少し首を動かして(うなず)く。



お互い血を流し、幾多の傷を負いました


ようやく戦いが終わったのですから、いがみ合うのはこれくらいにしておきましょうよ




 イザベラが隣にいる相手に優しく語りかけると……



……わかっている




 紅は不快感を封じ込めるように、両目のまぶたを閉じた。



それで――

マウティスさんの教えとは、いかがなものなのですか?



それにゃんだけどにゃ、じつは提案があるのにゃよ



提案?



うにゃも。

悪いハナシじゃないと思うけどにゃ~




 思わせぶりに言って、ウチはニヤリと笑みを浮かべた。


























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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