第10話 食いつきが異常な新入り猫

文字数 1,495文字









メシだぁぁぁぁ!


メシィィィィィ!




 新入り猫はランランと輝く瞳を俺の持つニャオ☆チュールに定めて突進してきた。







ボス!



あぶにゃい!




 闇雲に向かってくる新入り。



 動きを見切って、俺は拳をくり出す。



ハッ!




 俺の拳が新入りを捉えた。



 厚い肉球が、相手の額を軽くはたく。



ふげえっ!




 動きは速いが威力は充分抑えたつもりだ。



 だが――



フニャアアアアアッ!




 新入りは地面にひっくり返って、のたうち回る。



うぅぅぅぅ~!

死ぬぅぅぅぅぅぅ~っ!



落ち着け。

手加減したから、ほとんど痛みはねぇはずだぞ



うぅぅぅぅ~!

もうダメだぁぁぁ~っ!



大げさなやつだな。

死なねーから安心しろ



おっ、おなかが減って……、

もう立てない……っ!



あぁ?

なんだよ、痛ぇんじゃなく空腹で(あえ)いでるのかよ



ハ……ハイ……飢えてます……


食べ物と聞いたら、見境がなくなっちゃって……


本能の(おもむ)くままに……突っ走って、しまいました……



なんやそれ、単に食い意地が張ってるだけとちゃうか?



チュールを独り占めするための虚言(きょげん)かもしれにゃいにゃ




 ひでぇいわれっぷりだ。



 マウティスならともかく、この新入り猫に俺たちをダマすほどの度胸があるとは思えねぇ。



きょ……虚言だなんて……


僕は本当に……おなかが減ってる、だけなん……です……!




 苦しそうにあえぎながら、新入りはその場にうずくまる。



このコ、そんなに痩せ細ってはいないけど、なんだか(つら)そうよ。

ホントに空腹なんじゃない?



見ていて哀れデス



ボス。

事情はあとで聞くとして、ひとまず掟おきてにしたがって食べ物を分け合いましょう



そうするか。

放置しておくわけにもいかねぇしな




 俺は前足を動かしてニャオ☆チュールの束から一本取ると、手前に引き寄せる。



ちなみにそのニャオ☆チュールは、どちらで?



商店街にあるラーメン屋だ


あそこの亭主はやたらと俺を贔屓(ひいき)にしてるからな。

店に近づくと、たいてい何か持ってくるんだよ



ボスのカリスマがなせる技ですね



そーなのかねぇ



ボスにゃんは、顔よし、毛色よし、体格よしのイケネコだからにゃ~



当然まわりのヤツらは一目置きますね!



人間だってキャーキャー言うわよぉ



たしかに、撮られた写真の数は計り知れねぇ


そういやラーメン屋のオヤジがこぼしてたけどよ


店のオヤジが自分で作ったラーメンの写真よりも、俺の写真をネットってやつにあげるほうが人間たちに喜ばれるらしいぜ



皮肉なモンにゃねぇ



だから店に行くたび、毎回しつこく写真撮られるんだよな



きっとステキな写真なのでしょうね



ボス、ステキっす!



カリスマイケネコっす!



へへへ、まあな!



すっ、すごい……!

さすがボス猫……!



そーゆうわけで、新入り。

かなりハラ減ってるみたいだし、オメェからこいつを食わしてやるよ



おおお~っ!

ありがとうございます~!



ズルいにゃも! 

えこ贔屓(ひいき)にゃも!



マウティス姐さんの言うとおりや!

今日来たばかりのくせにめっちゃ優遇されてますやん



ワタシも早くペロペロしたいデス



ミミも~!



オメェらの分まで食わせるわけじゃねぇんだから文句言うな




 俺はひとまず地面に置いていたチュールを一本口にくわえた。



 それを手ごろな平たい小石の上にのせる。



 すでに袋の切り口は開けてある。ラーメン屋の親父が気を利かせて袋の先端を切っておいてくれたおかげだ。



 切り口が開いているから、前足で軽く圧をかけるだけで中身が絞りだせる。



ほら、食えよ




 液状のペーストがニュルリと出てくると、それまで地面に這いつくばっていた新入り猫がぶっ飛んできた。



 超高速の舌使いでチュールをベロベロ舐める。



ハァー、うめえぇぇぇー!



興奮しまくりだな
























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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