第154話 手遅れ

文字数 1,274文字





 紅の気が逸れているうちにヨウが逃げる予定だったが――



 気づかれちまったんじゃどうしようもねぇ。



ヨウ! 

早く別の骨組みへ跳び移れっ! 



ラ、ラジャー!




 ヨウは戸惑いながらも宙に跳び上がった。



 長毛の体が細いパイプから平べったい鉄工へと流れるように移動していく。



フゥ……




 ヨウは渡り切ってひと息つくと、さらに斜め下へとジャンプした。







 ヨウが跳び込んだ先は、ガラクタの山だった。



 その頂上には、テンダと偵察猫がいる。




 シュタ!




 ヨウは両手足を地につけ、無事に着地した。



合流できてなによりだ



ひとまずここで休んでください



ハイ、ソウシマス


ペロン……ペロン……




 興奮をしずめようと体の毛を軽く舐めはじめる。



おのれっ!




 紅はイラ立たしげにヨウを睨みつけた。



 だが、あとを追いはしなかった。



 すでに紅の背後をとるかたちで、俺が細いパイプの上に立っているからだ。



よぉ、紅。

テメェの相手は俺がしてやる




 早々と移動を済ませた俺を見て、紅の瞳がわずかに揺らぐ。



貴様……、

いつの間にそれほどすばやく動けるようになったのだ?



言っただろ。

前足の不調は一時的なもんだって


それにいまの俺は、こう見えて結構ブチキレてんだよ



……?



なぜ頭にキテんのか、理由がわからねぇってか


まぁとにかく怒りってやつは能力を高めてくれる。

足場が狭かろうが、足元が不安定だろうが、研ぎ澄まされた集中力で難なくクリアだぜ!




 もちろん何度も狭い場所を行き来して、移動に慣れた要因も大きいが。



 とにかく筋肉のこわばりが治まって、自由に動けるようになった。これでやっと思う存分戦える。






 紅はそんな俺を(あざけ)るように鼻で笑う。



フンッ、その程度のことで調子に乗るな


所詮、貴様は追いつめられたネズミにすぎん!



ネズミを(あなど)ると痛い目見るぜ。

アイツらは賢いし、移動能力にかけては俺たち猫より上だ



だまれ!

おれに楯突(たてつ)くより、傷ついた仲間の介抱(かいほう)でもしているがいい!


貴様も仲間も、みんなまとめて一掃(いっそう)してやる!



ハッ! 

ナメるんじゃねえええええ!



ムッ……!




 怒りの大喝(だいかつ)を受けて、紅は警戒し身構える。



一つ問題を出してやる。

なんで俺が頭にキテんのか、その理由を当ててみろ!



そんなもの知るかっ



知るかだと?

ふざけんな、このクソがぁぁぁぁぁぁっ!




 渦巻く感情を声に出して解き放つ。



 怒りの荒波が逆巻くようにうねりを上げ、廃工場を揺るがす勢いで(とどろ)いていく。



テメェらは、新入りの妹を誘拐したなどと(いつわ)って俺たちをおびき寄せた


つまり俺や新入り、みんなの期待をすべて裏切ったんだ!



我らとて(だま)したくて騙したわけではない


そのように言わなければ、貴様らをここに呼び寄せることができなかったから、やむなく――



うるせー!

よくも騙したなぁぁぁ!



ガニャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!




 怒りの叫びが場を圧する。



 まるで悪魔の叫びとも恐れられる俺の咆哮(ほうこう)は、吐息は魔風のごとく、轟きは雷鳴のごとく、辺りを恐怖一色でつつみ込んだ。
















ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色