第120話 動揺

文字数 1,426文字





 いきなり熊介(くますけ)さんにヨツバちゃんを好きかと(たず)ねられて――



 判断に困ったボクは、言葉に詰まってしまう。






 しどろもどろになるボクを見て、熊介さんは不愉快そうだ。



ふぅん、やっぱりな!



ボボッ、ボクは、まだなんにも言ってないですよ……!



言わなくても反応でわかるよ



え、反応ですか?



そーだよ!

シッポの動きだって落ち着きがないし、さっきから視線が泳いでばかりだ



はわわわわっ……!




 できるだけうろたえてるのがバレないようにと、おしりに力を入れてシッポを動かさずに努めてみたけれど、無駄だったみたいだ。



熊介さんは、ス、スルドイですね……!

きょ、挙動だけでボクの本心を見破るなんて……



そんなの誰でもわかるよ。

おれみたいな下っ端でもな



い、いいな……。

ボクなんか自分の感情に振り回されてばかりで、周りを気にする余裕もないくらいなのに……



ま、経験の違いってやつかな。

おまえみたいに外の世界を知らない飼い猫は、ボケッとしすぎなんだよ



はわぁ~……




 痛いところを突かれて、ボクは気恥ずかしさに縮こまる。



 こんなところをヨツバちゃんに見られたら、情けないって思われるかな……?



 ヨツバちゃんのことが頭に浮かぶと、彼女に対する熊介さんの気持ちが余計に気になってきた。



熊介さんは、ヨ、ヨツバちゃんこと……、

どっ……どうなんですか?




 おもいきって問いかけてみると……



どうって……

ヨツバちゃん、いいコそうだし


ちょっと若いけど、いいお嫁さんになってくれそうだし……



お嫁さん!?




 予想もしてなかった返答にボクは仰天する。



そーだよ。

おまえはまだ子どもだけど、おれはもう適齢期だからお嫁さんが欲しいんだよ



……




 熊介さんの言葉をシャットアウトするように、ボクは耳を伏せてしまいそうになる。



 けれど、そんなことをしてる場合じゃなかった。



 突然、聞き(のが)すわけにはいかない音が静寂を破って響いてきた。







いまのは!?



あああ、あれは――っ、

ヨツバちゃんの声だ……!



やっぱりヨツバちゃんか! 

すごい叫び声だったけど、何かヤバイことが起こったのかな?



わっ、わかりません……っ!

ととっ、とにかく――は、早く様子を見に行きましょうっ!




 と言いながらも、恐怖心のせいで体の動きがぎこちない。



 だけど、ヨツバちゃんのことが心配だ。



 ボクは勇気を(ふる)って大地の上を一歩踏み出す。




 ところが――



ダメだ、新入り。

おまえはここにいろ




 熊介さんがボクの正面にまわり込んで、ストップをかけてきた。



で、でも……

ヨツバちゃんの身にもしものことがあったら……!




 しぶるボクを見て、熊介さんは「う~ん」と軽く(うな)ったあと、投げやりな口調で言った。



よく考えてもみろよ。

もしねこねこファイアー組のヤツが現れたとしてさ――


おまえが行ったって、どうせ役に立たないだろ



どうせ役に立たない……!?



それに、もしもジロリ組の誰かがここへ戻ってきたとき、誰もいないんじゃ困っちまう


ヨツバちゃんのことは、おれに任しとけ



はわぁぁぁ……!





 〝どうせ役に立たない〟



 胸を刺す言葉を受けて、足が固まった。




 でも、熊介さんが悪いんじゃない。



 指摘のとおり、ボクはひ弱で役に立たない猫だ。



 自分でも否定できないほど的を射ている……。



そ、それじゃあ……ボ、ボクはここで待ってます。

熊介さん、お、お気をつけて……



おう、行ってくる!

何かあったら、大声で鳴けよ




 ボクはやるせない思いを抱えながら、走り去っていく熊介さんを見送った。































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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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