第95話 覚悟しいや

文字数 1,268文字





 灰色の体が空中を跳び越えて急接近する。



ハアァーッ!



動きは機敏やな。

せやけど――




 ワイは二足立ちになり、全身にグッと力を込めて身構えた。



かかってこんかい!



ぶっ飛ばしてやる!




 ヤミミンの体当たり!



 ワイはそれを真っ向から受け止める。







ハヒャ……ッ!




 体がグラつく。



 勢いに押されて、数歩後ろへ追いやられる。



 けど副ボスのときのような、体にズシーンと響く重みがない。



 フラつきながらも踏ん張ってヤミミンの体当たりを受け止めた。



ウッシャーッ!

耐えたで!



なっ……!?




 ワイは下腹から両足にかけて力を込め、逆に相手の体を押し返しにかかる。


 

ハヌアァァァァアアッ!



フキャッ!




 ヤミミンは()り合いに負けて、仰向(あおむ)けにゴロンと転がった。



なんや、やっぱ言うほど実力ないやん


そもそもパワーが足りひんわ。

同じメスなら、ミミのほうがはるかに強いで!



うっさいわね!

かわいさではあたしのほうが――



やかましい!




 ワイは片手をブンと振って、ヤミミンの(よこ)(つら)をひっぱたく。



 パシッと顔の表面が肉球にはじかれると共に、少量の抜け毛が飛び散った。


 

 同時に放出される不快なニオイが鼻をつき、ワイは顔をしかめる。



ひどい!

女のコを殴るなんて、マジでひどい!


この鬼畜野郎! 

外道! 死ねっ!



はぁ!? 

いまさらなに甘っちょろいこと抜かしとんねん!


ケンカを売った以上、メスだろうがオスだろうが関係あらへん


どちらかが降参するまで死力を尽くす、それが本気の戦いのルールや!



なによエラソーに!

ルールなんて知るかっ




 躍起になって、ヤミミンはワイのシッポに喰らいつこうとしてくる。



 シッポの先端をひょいと上げ、ワイはその攻撃を難なくかわした。



ええこと思いついたわ!

臭いもんには臭いもんで返したる!




 ワイは勝利のニオイのしみついた足裏をヤミミンの鼻に近づける。



ヤダ! くっさいっ!

汚い足を近づけないでよ!



拒否しても無駄や!


ジロリ組にケンカを売ったモンは、一生消えへんくらいの恥辱(ちじょく)にまみれてもらうのが(すじ)ってもんやからな!



はぁ!? 恥辱!?

あたしに負けて恥をかくのは、あんたのほうでしょ!




 けたたましく(わめ)きながら起き上がろうとするヤミミン。



 けれどもワイは、片手でヤミミンの首元を上から押さえつけるようにピシャリと打つ。



うぐっ……!




 ヤミミンは息を詰まらせ、顔を苦悶(くもん)(ゆが)める。



すまんのう。

ワイは、ワイ自身を大事にしてくれた者にしか優しくでひきひんのや



だったら……、

いまからでも、優しくしてあげる♡




 こわばった頬をゆるめ、ヤミミンはニヤッと微笑むが……



 ワイには他意を隠したように、胡散臭(うさんくさ)さいっぱいの表情にしか見えへん。



話のわからんやっちゃなー。

何度も言うが、アンタに興味ないねん



興味、ない!?








ウッヒャッヒャッ!

ショック受けてる場合やないで!


我が身のことしか考えへん自己中には、地獄が待っとるんや!

覚悟しいや!




 ワイは拳を振り上げる。



 広げた指先を鋭利な凶器で武装して――。























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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