第68話 危険な戦い④

文字数 1,629文字





 小屋の中へ落下していった紅を遠巻きに眺めながら、気分よく高笑いする。



にゃはははは! 

罠だとも知らずに屋根板を叩いてくれるとはにゃ


おかげで足場を崩し落下させる策略が見事キマッたにゃも!




 と、悦に入っていたのも束の間――




 グラグラ……



 グラグラ……



にゅ?

なんか足元が揺れるにゃね




 グラグラグラグラッ!



ふにゃああああ!

こっちの足場までグラつきはじめたにゃ!




 なんてことにゃ……!



 ウチは事前に紅の巻き添えを避けるため、別の骨組みへ移っていたというのに。



 まさか、こっちの足場にまで被害が及ぶにゃんて――!







 もはや足元の木材は支えとしての機能を失って、倒れようとしていた。



 体を支える骨組みが耳障りな(きし)みをあげ、しまいには金具がポーンとはじけ飛ぶ。



ゲェッ!

倒壊するにゃ!





 ウチの体重を預けていた木が地面に向かって激しく(かたむ)いていく。



 語れば長く感じるけどにゃ、時間にしたらあっという間にゃも。



ふにゃあああああああ!


落ちるのは嫌にゃ~~~っっっ!




 こうなったら闇雲(やみくも)に走ってジャンプにゃー!



 ウチはチーター()りの猛ダッシュで崩れかけた足場を駆け抜けるが……



あれれ?




 違和感をおぼえて下を見れば……



 途端に視界が一面の水となった。



 背筋にゾクリと悪寒が走る。



ふにゃっ!

建物の裏側は川だったにゃっ……!




 真下は一面の川だった。



 慌ててジタバタするけれど、支えを失った体はむなしく宙を漕ぐばかり。



水にドボンするのは嫌にゃあ~~~っ!


猫は濡れるのが嫌いなのにゃあ~~~っ!




 とはいえ、回避する(すべ)などあるわけもにゃく……。





 ボッチャ~ン!





 派手なしぶきをあげ、体が川面に打ちつけられる。




 ちめたいにゃ……。




 全身が水で汚されてる感じがするにゃも……。







無様(ぶざま)だな、マウティス




 いつの間にか建物から出てきた紅が、川べりに立って悠々(ゆうゆう)とウチを見下ろしている。



ふん、無事だったのにゃねっ



不測の事態とはいえ、あの程度の落下で受け身を取れんほど愚かではない


まぁ仮に体を打ったところで、貴様と戦えんほどのダメージにはならんだろうが




 紅の言うように、猫は三半規管さんはんきかんがめちゃくちゃ優れているのにゃ。



 だからウチが水面に飛び込むときもうまく身をひねっているから、衝撃は少ないはずなんだけどにゃ。



 にゃんか、足がちょっとおかしいような……?



さぁ、マウティスよ。

まだ勝負はついていないぞ。

陸へ上がってこい!



戦わずして勝つのがウチの戦法にゃも


拳の語り合いがしたければ、ウチの組のボスにゃんと(たわむ)れることにゃね!



ほざけ、敗北者めっ!



にゃははー!

勢いだけの筋肉ダルマに言われたくにゃいよ!


にゃはは……はは?




 うにゅ?



 やっぱり片足がオカシイにゃ……



ふにゃっ!?




 まさかの事態発生にゃも。



 さきほどから気になっていた後ろ足が、突然ひきつった痙攣(けいれん)を起こす。



ふにゃあああああ~っ!

足がああああああ~っ!



ム……?



このマウティスともあろう者が、いきなり水に()かった程度で足がピクピクしてしまうにゃんて……っ!



フッ、愚かな!


ならばそこで()ちるがいい。

愚かな敗北者にふさわしい死に場所だ!



死に場所って……ちょっ!




 ピンチにゃも!


 

 足が思うように動かせなくて、体が水に沈んでしまいそうになるにゃ。



フハハハハハ!




 水面でジタバタもがくウチを後目しりめに、紅は哄笑こうしょうしつつ身をひるがえして去っていく。



ふにゃあああああんぬ!


こんなところで死ぬにゃんて、さすがに恥ずかしいから嫌にゃ~~~っっっ!




 って、叫んだところで誰が助けに来るわけもにゃし……。




 そのときふと対岸の木に止まっていたカラスが、このマウティスを冷やかすように「カァ~」と間の抜けた声で鳴いた。



バカにするなんてヒドイにゃね!


ウチが死んだら確実に地獄に行くように、恨んでやるにゃも~~~!



























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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