第101話 究極のマジギレ ②

文字数 1,470文字





 激怒したミミは、殺気立った眼を敵に向けて獣のように()える。



フォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!



なんだ、コイツ……!?



様子がおかしいぞ……!




 紅とリャクは異変を感じ取り、後退しつつ身構えた。



とうとうミミを本気にさせちまったか



親分。

ありゃあ一体、なんすか!?




 テンダが駆け寄って疑問を投げかけてくる。



ミミは怒ると、手がつけられないくらいの暴れ猛者もさになるんだ



暴れ猛者に? メス猫が?



ああ、オスもメスも関係ねぇ。

怒りは力をみなぎらせる


あの不機嫌レベルをはるかに超えた戦闘態勢バトルモードのことを、俺たちは〝究極のマジギレモード〟と呼んでいる



究極のマジギレモード……!



ハアァァァァァァァァァッ!




 ミミは全身に力をみなぎらせた。



 尋常の域をはるかに(しの)ぐエネルギー。



 一部の毛がボリュームを増し、背中にいたっては山のように盛り上がっている。



あれこそミミが怒りの感情を力に変えた本気の状態――!



キラキラネックレスを台無しにした恨み、思い知れぇぇぇっ!




 空気を切り裂くような激しい威嚇。



 ミミはまず近くにいるリャクに狙いをつけて移動を開始した。



 異様に盛り上がった毛を維持しつつ、地を跳ねるように小刻みな歩調で前進していく。


 

なんちゅう独特な移動法……!

ありゃあ一体なんすか!?



あれはミミの特技の一つだ。

世間じゃ、通称『やんのかステップ』と呼ばれてる


だがミミの場合、ただの威嚇というより、相手をマジでブチのめすという意思表示であることが多い








 逆立つ毛。険しい顔つき。



 目が合ったら、魂をもぎ取られそうな狂気が(にじ)み出ている。



うげっ!

こっち来んな!




 リャクは、ミミのやんのかステップから放たれる、その異様な気迫に呑まれたようだ。



 まるで凍結したかのようにその場から動くことができない。



ビビッてんじゃないよっ!




 ミミの怒りの一撃が相手の顔面めがけてくり出される。



 鋭い拳がバシッとリャクの鼻を打つ。



ギャッ……!




 ()れる悲鳴。()()る体。



 リャクはダメージを最小限に抑えようと努めたようだが、無駄だったようだ。



どうやらやんのかステップに圧倒されちまったみてぇだな。

恐怖に呑まれて、動きがぎこちねぇぞ



ク、クソッ……!



もう一発浴びときなっ!



ギャハッ!




 グラリと体が傾く。



 続けざまにパンチを浴びせられ、リャクは不安定な姿勢を保ちきれずにバタリと倒れた。



イキがってたわりに情けないねぇ!

そんなことじゃ、アンタの地獄行きは回避できやしないよ!



う、うるせー!

地獄なんて知るかっ!



フフ! その鼻、無様だねぇ。

反抗したところでサマになってないよ!



ハハハ。

腫れて赤鼻になってやがるぜ



バ、バカにすんなっ!




 リャクは足を立たせつつ、とがった口調で返してくる。



 まなざしは反抗的だが、ミミに打たれて赤く腫れあがった鼻がどことなく滑稽で、迫力なんて微塵もありゃしねぇ。



反抗しても無駄だよ!

アタシの物をひどく扱ったんだから、アンタには地獄に行ってもらわないとねぇ!



なんだとっ……!?



あのキラキラネックレスには、アタシを大事にしてくれる飼い主の想いも詰まってたんだ!


毎回どこかへ引っかけて壊しても新しいものを新調してくれる、そんな飼い主の優しさがね!



ミミ、俺たちも加勢するぞ!




 俺とテンダが身を乗り出すが、



いらないよ!

こんなヤツ、アタシひとりで充分!




 ミミはシャーと牙をむき出して、怒りのみなぎる獰猛な顔をリャクのほうへ近づけた。



地獄に堕ちろぉぉぉぉぉ!




 拳を突き出し、ミミは猛獣のような勢いで敵のもとへ迫っていく。






















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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