第60話 狙った獲物は逃がさにゃい

文字数 1,901文字




 捕らえたカエルはついでにいただく(・・・・)にゃ。



モグモグ……




 ウチが空腹を満たしているあいだに、モブニャンは池のほとりで魚捕りを始めたにゃ。



ニャッ


ニャニャッ




 池に前足を突っ込んでは水をピチャピチャしぶかせて、それを何度も繰り返すモブニャン。



得意じゃないっていう申告どおり、全然うまくないにゃねぇ


あれじゃ単なる水遊びにゃも




 ウチはあえてそこには近づかずに、草地の上に丸まって様子を(うかが)うことにした。

 


 ころりんほわぁ~ん……。



 陽射しを浴びて気持ちよくなって、あたかも居眠りしているように見せるのがポイントにゃ。


  

 ほどにゃくすると――



フゥ……



 

 まるでひと仕事終えたみたいに、小さく息を吐くモブニャン。



 こちらの様子をチラリと横目で確認すると、そろーりそろーりと歩みはじめた。

 


 思惑どおり、さっそく移動開始のようにゃ。



にゃはー! 

引っかかったにゃね!




 ウチはサッと身をおどらせ、跳躍と疾走の合わせ技でモブニャンの正面に回り込む。



モブニャ~ン。

どこへ行くのにゃ~?



ウヒャア!


てっきり眠ってるものだと思ってましたニャ!



ウトウトしてただけにゃ。

それより、なんで急に魚捕りやめたのにゃ?



それは……


ちょ、ちょっと用を足そうかと思っただけですニャ



にゃるる。

そういうことならさっさと済ませばいいにゃも


あ、川のそばではしないでにゃ。

放尿入りの池で魚を捕まえるのは気分的に嫌にゃも



ウニャ!




 モブニャンは指示に従って、池からやや離れたところの茂みに座りこんだ。



 相手の気配に意識を向けながらも、ウチは池を観察して魚影ぎょえいを探す。



あれが良さそうにゃね




 手ごろな魚に目星をつけると、狙いを定めて身構えた。


にゃにゃーん! 

偉大なるマウティスの技の見せ所にゃも!




 チャンスは一瞬にゃ!



 鋭利な爪を立て、拳で水を叩く。





 ピシャー……ッ!





 狙った魚に衝撃を与えると、銀色の(うろこ)を持つ体がしぶきを放ちつつ水面から浮かび上がった。



キラーン!




 機を逃さず、鋭い牙で喰らいつく。







フナゲットにゃ☆



さすがですニャー!




 ちょうど用足しを終えたモブニャンが駆け寄ってきた。



 口にくわえたままだとしゃべりづらいから、一度魚を地面に置いて説明するにゃも。



魚を水中で仕留めるんじゃなく、まずは水面にすくい上げてから逃さないよう噛みつけばいいのにゃ


すばやくやるのがコツにゃよ



勉強になりますニャー!




 態度は従順だけど、本当にそう思ってるかは怪しいもんニャ。



 ま、そんなことよりお食事タイムにゃも♪

 


 ウチは獲得した魚にガブリとかじりつく。


 

 肉厚な食感、キュッと引き締まった身……



鮮度抜群にゃ~♪



これが食べられないとは残念にゃねー



いいから早く食ってくださいね



うにゅ?

何か言ったにゃ?



いえいえいえ、なんでもないっすよ!




 なんでもないわけがないにゃ。このバカちくめ!



 早くこの場を去ろうと焦ってるのにゃよね。



 だったらもっとゆっくり食べてやるにゃも。



ムシャムシャ


ムシャムシャムシャ


ムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャ……



咀嚼(そしゃく)長すぎですニャッ!



あー、おしかったにゃ♪




 魚を食べつくすと、ウチは手頃な大きさの石の上にコロンと横たわった。



くあぁぁぁぁ~。

食べたら眠くなってきちゃったにゃあ~



よかったら、ひと眠りしてくださいニャー!

迷子の捜索は、あっしがやっておきますから



じゃあそうしようかにゃ~




 同意しつつ、さらに大あくびを一つ。



 簡単に毛づくろいを済ませると、だらーんと姿勢をくずし、やがてイビキをかいてみせる。



 にゅふふ……

 (たぬき)寝入りならぬ、猫寝入りにゃも。



 案の定、(だま)されているとも知らずにコソコソと移動を開始するモブニャン。



やっと寝たな!

いまがチャンスだ!


急いで親分に報告しニャいと……!




 次第に足を速めて、モブニャンはどんどん池から遠ざかっていく。



かかったにゃね!

どれだけ距離をあけても無駄にゃよ


なんのために不器用なモブニャンに魚捕りをさせたと思っているのにゃ?


モブニャンを尾行しやすくするため、ニオイをつけてもらうためだったのにゃよ


 


 すでにモブニャンの前足は池の水にグッショリ浸かって、独特のニオイがしみついてるにゃも。



 自身の体臭に池の水の臭気が加わって、ニオイはいっそう強まったにゃ。



 そのニオイを追えば、追跡などたやすいこと――。



フフン!

何を隠してるのか知らないけど、秘密は必ず(あば)いてみせるにゃよ!


























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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