第34話 噂のおネコさん④

文字数 1,789文字




はわわわわわ~~~!

あ、頭がクラクラする~……




 めまいがしてるみたいに立っているのが(つら)い……。



おい、どうした?

そうパニくるなよ、新入り



……す、すみません……


……で、でも、ヨツバちゃん。

一体、どうして……?




 問いかけると、ヨツバと名乗る女のコは切実な表情で語りだす。



だって……


ボスの彼女になれば助けてもらえるって、ウチのお母さんがいってたから……



えええっ!? 

お母さんがそんなことを!?



おいおい。オメェの母ちゃん、どーなってんだよ。

勝手な憶測で娘にいい加減なこと吹きこむなって



じゃあボスは自分の彼女を見捨てるんですか?



いや……それは、ねぇけど



だったらあたしをボスの彼女にして、ワル(ねこ)たちの魔の手から守ってください!



ワ、ワル猫たち!?








あたしはそのワル猫たちに狙われているの


お願いします!

どうか、あたしを助けてください……!




 悲しげな嘆願が鳴き声となって辺りに響きわたる。



 僕は居てもたってもいられず、手足にグッと力を込めてボスに訴えかける。



う、受けましょう! ボス!



あ? 

んじゃオメェの妹さがしはどーするんだよ



アァアッ! 

そ、そうだった……!




 一瞬とはいえ、妹のことを忘れるなんて……。



 ウッカリしていた自分に嫌気が差す。



 ボスは不機嫌そうに目を閉じたまま、前足の肉球をペロリと舐める。



メスに熱上げてカッカしてんじゃねぇよ



ボ、ボクはそんなんじゃ……!




 恥ずかしさのあまり、条件反射的に言い返してしまった。



 ボスは無言のまま、前足に絡んでいた小石を舌ですくい取って、ペッと吐きだす。



とりあえず事情だけでも聞いておくぜ


そのワル猫っていうのは、どこの組のヤツらなんだ?



ジロリ町の隣町にはびこる、

『ねこねこファイアー組』の連中です!



やっぱりな。

アイツらの仕業か……



こ、心当たりがあるんですか?



ねこねこファイアー組の名は、今日の集会で話にのぼっていただろ


このジロリ町の縄張りをおびやかす組織の一つだ。

荒っぽいヤツらが多い


ジロリ組にろくでもねぇことを仕掛けてくるんじゃないかって、以前から警戒してたんだ



そ、そんなひどい連中が、この付近にいるだなんて……



あたしの住んでいた近辺は、もうねこねこファイアー組に占拠されてしまっていて、手も足も出ない状態なんです


そのせいでみんながしいたげられていて、ウチの兄弟もボコボコにされちゃって……



ボッ、ボコボコにぃ!?



そうなの。

兄も弟もみんなひどいケガを負わされて……


お母さんはその面倒を見るのに精一杯で、それであたしは追い出されちゃって……



そうだったんだ……



どのみち親離れの時期だったから、諦めるしかなかったんだけどね


だけど、あまりに急だったから、まだひとりで生きてく覚悟も全然できてなくて……




 涙ぐむ彼女を見ていると、ボクの胸はうずいた。



 本音を言えば、さっきからヨツバちゃんに近づきたくて仕方がない。



 彼女のそばに寄り添って、淡い色の毛につつまれた頬をそっと舐めてあげたくなる。



別れ際に、お母さんや兄弟たちからボスの話を聞いたんです


隣町のボスは強くて評判もいいし、並みのボスよりふところが広いから、つながり・・・・を持てばなんとかしてくれるって


だからどうにかしてボスに出逢えないかなって、ずっと考えながらさまよってたんです



ほぉ~


こまけぇことはともかくとして、なんか俺、すげー褒められてるな♪



いいな……!

ボ、ボクも褒められてみたい……



ボス、お願いです!

ねこねこファイアー組のヤツらを追っ払ってください!



気持ちはわからんでもねぇが、いきなり他の縄張りの猫どもを追っ払えっていわれてもなぁ



ボス……!

ボ、ボクからもお願いします!


ボクも一生懸命お手伝いしますから……!



オメェの手伝いは足手まといの予感しかしねぇぞ



うっ……!




 認めたくないけど、たしかにそのとおりかも……!



ボス、お願いです!

あたしたちを見捨てないでください!


ねこねこファイアー組に奪われた地域に平和を取り戻すためにも、どうか……!



ウーム……



もしヤツらと戦ってくれるなら……


いますぐ子づくりしてもいいです!



えええええっ!?



いますぐって、いくらなんでも早すぎだろ!



だったらその役目、オレが代わりにっ!




 ガサガサッと草花がせわしなく揺れた。



 唐突に、茂みの中から体の大きな猫が駆けてくる。



――副ボス!























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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