第141話 真価

文字数 1,668文字





 マタタビフィーバーの子どもたち。



ふにゃふにゃあ~


ホニャニャ~ウ



なっ……、

なんということだ……っ!




 すっかり酔いのまわった子どもたちを目にして、父猫は動揺する。



マタタビなんて、最初から子どもに持たせるなよ



メデアー! イソルダー!




 紅は俺のツッコミを無視して、早々(はやばや)と動き出した。



 いくつかの管や(はり)をすっ飛ばして、またたく間に子どもたちのもとへ駆けていく。



 木登り上手の猿さえもその移動速度に舌を巻きそうだ。



大丈夫かーっ!?



ろった(酔った)にゃあ~


めいてー(酩酊)、ニャ~ウ




 ろれつのまわらない返答。



 子どもたちはすっかりマタタビにやられて、壁にだらしなくもたれかかり、焦点の定まらない視線を宙に向けている。



 それでもマタタビへの執着は捨てきれないのか、口にくわえた小枝をはむはむしている状態だ。




すまなかった。

メデア、イソルダ


組の一大事とはいえ、おまえたちを巻き込むのではなかった……




 紅は、メデアとイソルダの(くわ)えたマタタビの小枝を片手で払い落とした。



あれ~もう終わり~?


もっとはむはむしたい、ニャウ~



これ以上摂取させるわけにはいかん!

体が未発達な子どもに、マタタビはよくないのだ!



ふにゃあ~


フニャウ~



ガキどもはテメェの忠告なんざ耳に入ってねえようだぜ



だまれ!

この子たちは聞き分けの良い子だ!


おれの言うことをきちんと聞いて、もうマタタビをせがんだりはしないはず!




 と、信じきって断言したものの……



はやくマタタビちょ~だいよぉ!


もっと食わせろ、ニャウ!








 子どもたちの過度な要求は、尽きることはなかった……。



……








ははは!

全然聞き分けよくねぇな!



うるさいっ!




 すると、それまで様子を見ていたトウが、しびれを切らしたように会話に交ざりこむ。



親分っ! 




 念のためおさらいしておくと、インテリと交戦中だったトウは、マタタビの効果が切れはじめた。



 たちまち劣勢に追いこまれ、あとがなくなったところで、紅jr(ジュニア)たちにマタタビをせがんだのだが……



おれ、もうバテてきちまって……。

このままじゃヤバいんで、そのマタタビを分けてください!




 トウが近づいてくると、紅はウンザリしたように相手を一瞥(いちべつ)した。



 語気を強めて一蹴(いっしゅう)する。



やらん!



エッ!?



おまえはマタタビの効力に頼っても、敵を仕留めることができなかった。

二度三度摂取したところで、マタタビの効果は薄くなるばかり


これはおれが処理する!



エエエェェェエエッ!?



テメェが食うのかよっ!



元々このマタタビは、おれも含めたねこねこファイアー組のために備蓄しておいたもの


おれはマタタビ中毒ではないが、摂取すればいま以上に真価を発揮することができるはず!


マタタビでパワーアップしたおれの力、とくと味わうがいい!




 紅は高らかに宣言し、足元のマタタビへ口を寄せる。



おい、こら!

待てって――!



あっ、おれのマタタビが――!




 紅は、俺とトウのどちらのリアクションも無視して、マタタビの小枝を2本ともくわえ込んだ。







 バキバキバキッ!




 尖った歯でマタタビの小枝を豪快に噛み砕く。



 そんなに柔らかいもんじゃないはずだが、何度か咀嚼(そしゃく)すると、小枝のすべてをゴクリと飲み込んでしまった。



オオォォォォォォォ!

燃えてくるぞぉぉぉ!




 紅にまたたく間に変化が起こった。



 ギラギラと瞳が燃えて、背後に炎が揺れる――



 そんな(たけ)り狂った場面を彷彿(ほうふつ)とさせるような、異常な興奮につつまれはじめている。



マジかっ!?

すげえ闘気だ……!



フハハハハハ!

燃える! 燃えるぞ!


心の底から燃え立つような闘志が湧きあがってくるぞぉぉぉぉぉっ!




 紅は俺を見据えながら仁王立(におうだ)ちになった。



 あえて弱点となる腹部を晒してくるのは、よほどの自信があるからだろう。



フッフッフッ、プルートよ。

真価を発揮した我が力、骨の(ずい)まで味わうがいい!





 悠々と俺を見下ろしながら、紅は()える。



 まるで自分がすでに勝利者だと宣言するかのように――






























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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