第122話 正体不明の存在②

文字数 1,238文字




 ヨツバちゃんと熊介(くますけ)さんの(あと)を追って――



 ふたりの向かった川のほうへ近づいていくと、ギョッと息が詰まるような場面に遭遇した。



ち、血のニオイがする……!

どっ、どうして血が……!?


まさか、ヨ、ヨツバちゃんがケガを――!?








 想像するだけで体が震えてきてしまう。



 ボクは声が不自然に上下するのを感じながら、暗闇に呼びかけた。



ヨ……、ヨツバちゃん……?


く……、熊介さん……?




 誰も答えてくれない……。



 こんなときに限って、耳障りだった風もピタリと()んでいる。



 冷たい夜の静寂が、意地悪くボクを孤独の世界へ閉じ込めようとしているみたいだ。



な、なんで誰もいないの……!?


こんな状況で、ど、どうすればいいの……!?




 もうパニックになりかけて、頭がおかしくなりそうだ。



 それでもどうにか状況を打破したい一心で、血のニオイをたどって、恐る恐る先へ歩んでいく。



 ふと、その途中に――



 座布団みたいな(かたまり)を見つけた。



なんだろう……?




 草の上にあるそれは、どことなく横倒れた猫に見えなくもない。



あっ!

このニオイは――!?




 血の臭気にまじって、猫のニオイを感知する。



 駆け寄って、鼻で確かめてみると、



あぁ、やっぱり……! 




 暗闇の中に倒れているのは、熊介さんだった。







熊介さん!

熊介さん……っ!




 声を張って呼びかけるけれど、返事はない。



熊介さん、気を失ってるみたいだ……




 よく見ると、熊介さんの首回りは血まみれになっている。



えええええええっ!?

どうして、こんなことに――!?





 出血は止まっているみたいだけれど、熊介さんはグッタリしている。



 助けを呼びたいけれど周りは草木ばかりで、猫も人も、役立ちそうなものは何一つ見当たらない。



どどど、どうしよう……! 

こんな事態になるなんて……!




 さっきまでは平和だったのに、もうわけわかんないよ~!



 思考回路がこんがらがって、脳ミソが火を噴いちゃいそうだ。



と、とりあえず、血をどうにかしなくちゃ――!




 ボクはパニくりながらも、熊介さんの首回りの毛を舐める。



ぅ、ぅ~ん……



熊介さんっ!?



……




 意識が戻ったのかと思ったけれど、熊介さんは再び沈黙してしまった。



 それにしても、どうしてこんなケガをしたんだろう……?



まさか、誰かに噛まれたとか……?




 事情はわからないけれど、舐め続けていたら血で汚れた毛は少しキレイになった。



昔、妹のミネの擦り傷もこうしてボクが舐めてたなぁ……




 ふいに懐かしい思い出がこみあげる。



 少しだけ、張り詰めていた気がゆるんだ。



 そのときだった。




 ガブッ!




えっ――!?




 強烈な痛みが首から伝わってくる。



なっ……なんだ、これ?

一体、どういうこと――!?





 急な不意打ち。



 ボクの後ろに誰かがいた。



 その正体不明の存在は、何の前触れもなく、ボクの首に噛みついてきたのだった。


























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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