第157話 本気の力③

文字数 1,779文字





 一撃で仕留められるか、激しい連打によるメッタ打ちか――



 好きなほうを選べと提案してやったにもかかわらず、紅は選択を拒否してきやがった。



せっかく配慮してやったってぇのに、無碍(むげ)にするとはバカなヤツだ


どうやらテメェは、ボコボコにされねぇと気が済まねぇようだな!



できるものならやってみろ!

叩きのめされるのは貴様のほうだ!



猫ってやつには、獲物を仕留めるために非情なハンターとしての側面がある。

野生の血が流れているからだ


もちろん、俺も例外じゃねぇ



何が言いたいのだ?



俺の野生の血(それ)は極めて強ぇのさ。

他の猫と比較にならないくらいにな!




 そう――



 野性の高まりは、怒りとともにやって来る。



 まるで体に悪魔が宿ったかのように強大な力が湧き、制御を失うほどに猛々(たけだけ)しい……。



テメェはジロリ組にケンカを売った。

俺たちを(あざむ)き、仲間を傷つけた……


その(むく)いとして、テメェを体に穴が開くまで殴ってやる!




 衝動的に体が動いていた。



 俺は手足を骨組みにつける同時に走り出す。



 細い足場でも躊躇(ちゅうちょ)はない。パイプの中心を正確に蹴って、高速に敵へと迫っていく。



――はっ、速いっ!



俺の拳、止められるモンなら止めてみろーっ!




 一瞬で間合いを詰め、攻撃範囲に入る。



 煮えたぎる熱を拳にのせて放つ――!







なんのこれしき……っ!




 紅は攻撃を回避するべく、巧みなフットワークを見せた。



 だが、俺の拳はそのさらに上をゆく。



 完全にかわしきるのは不可能だ。



 なにせ俺のパンチは、吹き荒れる嵐のごとき速度を持つ。



 容赦なく打ちつける衝撃――まさしく疾風怒濤(しっぷうどとう)



ぐあぁぁぁっ……!




 ついに紅が拳の嵐に巻き込まれた。



 指先から伸びた凶器が(ひたい)の毛をむしり取り、赤い爪痕(つめあと)を刻みつける。



おのれっ!




 ダメージを受けながらも、紅は冷静だった。



 俊敏に別の骨組みへと渡って、足場の広めな金属板に跳び移る。


 

 それから身を(かが)めると、床に腹をつけてしゃがみ込んだ。



ほぅ……、

急所へのダメージを避けるため、体勢を低くしたか




 さすが百戦錬磨(ひゃくせんれんま)猛者(もさ)は対応力が違うってか。



 だが、俺の能力と経験はそれ以上だ。



んじゃ、反対に俺は仁王立(におうだ)ちになってやるよ



ムッ……!?




 まずは紅のいる場所へ移動する。



 そして二足立ちで上体を伸ばし、腹を見せつけるような姿勢をとった。



貴様っ……!

あえて弱点をさらけ出すつもりかっ



そーだよ。

ほら、ビビッてねぇでかかってこいよ!




 紅のいうように、後ろ足だけで立つ仁王立ちは欠点が目立つ。



 安定性を欠くだけでなく、腹や首などの急所をさらけ出すからだ。



 けれども利点もある。






 俺が仁王立ちする目的は、両手使いの特権をフル活用したいからだ。



 後ろ足だけで立つことで、空いた両手を思う存分使える。



 ついでに言うと、相手が弱点丸出しのポーズに釣られて、攻撃を仕掛けてきやすくなるメリットもある。



 なにせ猫は持久力に乏しい。

 長期戦に持ち込むつもりのない俺としては、ベストな構えだ。



おおおぉぉおぉおおおっ!



来たか




 紅は俺の挑発を受けて、跳びついてきた。



 伏せ体勢だった紅は、体を下から上へバネのように躍動させて襲いかかってくる。



貴様の攻撃など封じてくれるわっ!



ハッ! 

できるもんならやってみろよ




 余裕を崩さず、いましがた紅の口にした発言をそのまま返して迎え撃つ。



 紅の狙いは、おそらく俺の拳だ。



 苛烈(かれつ)な猫パンチを生む俺の手を、力づくで封じ込もうと考えているに違いない。



ハアアァァァァァッ!




 予想どおり、紅はこっちに跳びついてくるや否や、両手をすばやく動かした。




 バシッ!




 紅は俺の右手を上下に挟んで押さえ込む。



 それは刹那(せつな)の攻撃といっても過言じゃなかった。たちまち燃えあがる火のごとくスピードが速い。



砕けてしまえーーっ!




 紅は捕らえた手に噛みつこうと、大口を開けて肉薄する。



させるかよっ!




 右がふさがってるなら、左で殴りゃいい。



 俺は空いている左腕をブンッと振る。



 紅の脇腹に、おもいきり拳を叩きつける。




 ドムッ!



っぐぅ……!




 紅を襲う疾風の一撃。



 百戦錬磨と恐れられたボス猫の口から、苦しげな吐息が()れた。






















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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