第14話 問題をかかえた新入り猫②

文字数 2,033文字





さーて、食いモンもみんなで分けて食ったし、そろそろ集会をおひらきにするか



あ、あの……



なんだ新入り。

まだ何か用があるのか?



ボ、ボクの名はコウっていいます



ほぅ



名前があるのはええことや


せやけど、ここじゃあ新入りはただの〝新入り〟と呼ばれんのがルールなんやで



そうなんですか……っ



まぁオメェみてーな集会にろくに参加したこともねぇ新入りが驚くのも無理ねぇか


集会ってやつには細々とした〝ルール〟が定められているんだぜ



はぁ……、

ルール、ですか……?



むろん誰もいない新天地を縄張りにしたらルールなんぞねぇ。

だが、そんな場所はほぼねぇ



えっ……、

ど、どうして……?



猫ってやつはどこにでもいるからな。

たいがいはその土地ごとにボス猫がいる


んで、その縄張りを仕切っていたボスと、ボス候補の猫の仲が良好だった場合は、集会の掟が次のボスに受け継がれていくってワケよ


掟ってやつはある意味、その土地における歴代ボス猫ヒストリーといってもいいだろうな



な、なるほど……!


で、でも……、

ボクたち猫に、ルールなんて……必要なんですか?



必要不可欠さ。

ルールなくして秩序は保たれない


たとえば人間に上下関係があるように、うちの組でも古参と新入りは同等ではない


上下なく下々との扱いがすべて同じでは、古参のメンバーが不満をいだいてしまうからね



そーゆうことにゃ。

名前で呼んでほしければ、しばらく集会に参加しつづけることにゃね



し……しばらくって、どのくらいなんですか?



たとえば週に一回集会がひらかれるとしたら、最低でも十回は参加してもらわにゃいと



そ、そんなに!?



んな大げさに驚くほどのことでもないで


嫌ならよそのシマに行けばええやないか。

ウチのとこより大事にされるとは思えへんけど



ジロリ組は居心地がいいからね~♪



ソウデスネー。

ペロン……ペロン……




 ヨウは会話よりも食後の毛づくろいに夢中になっている。



 下っ端たちもせっせとグルーミング中だ。



 それに比べて新入りは、地面に手足が張りついてるのかっていうくらいの直立不動の状態だった。



 どことなく焦りの表情の裏側に、差し迫った感情が垣間見えなくもない。



 よほど切羽詰まるような問題でもかかえているんだろうか……?



つ、つまりボクは……、

まだジロリ組の正式なメンバーじゃないってことですか?



お前さん、勘違いしとるで



エッ……!?



ジロリ組は、この〝ジロリ町の縄張りを取り仕切る組〟のことなのだよ。

町にいるすべての猫がジロリ組に属しているわけではないんだ


この町を拠点に暮らす野良猫や、ある程度行動に制限のない飼い猫が、縄張り維持という目的のために自主参加している、それが『ジロリ組』なのだよ



じゃあ、ボ、ボクが組に入るにはどうしたら……?



新入りは組には入れにゃいよ



は、入れないんですか……?



新入りの中には、稀に他の組に情報を流すスパイが潜んでるにゃも


スパイかどうか見極めるためにも、一定期間の参加を条件にしているのにゃ



スパイがいる……?



そうにゃも。ただし元々猫はあんまり辛抱強くなくて気まぐれだからにゃ。

長期間参加っていうと、みんなめんどくさがるのにゃ


だからウチの組に潜入してきたスパイは、たいていすぐに消えていくにゃね



なるほど。

いろんな事情があるんですね……



ところでオメェ、下々家(ゲゲドウ)の家にいた頃は、まともに外へ出たことなかっただろ?



はい……


け、けど近くに住んでいる猫や、たまに聞こえてくる話し声から、この集会のことやボスのことを聞いていたんです……


だから……、

ここに来ればどうにかなるかと……



あぁ?


どうにかなるって、オメェの問題は空腹だけじゃねぇのかよ?



はぁ……それが……




 言いかけて、新入りは唐突に混乱状態になる。



あぁ、どうしよう……!


新入りなんてほとんど部外者みたいな立場じゃ、聞き入れてもらえるかどうか……



なんだよ、悲観的なヤツだな


新入りとはいえ、平等に食いモンを食わしてやったろ?



そ、そうですよね。

おかげで生き返りました……



だったらモジモジしてねえで話せよ。

どのみちオメェにはあとで事情を聞こうと思ってたんだからよ



そ、そうだったんですね……!

てっきり新入りという立場じゃ、きちんと話を聞いてもらえないのかと……



俺は、んなことしねぇ



ボス……!




 事情を聞いてもらえると知って、新入りはうれしそうに顔を輝かせた。






では、その……お願いごとが……



なんや? 

まだ何かあるんかいな



厄介事は御免にゃよ



うっ……!

すみません……!

新入りの分際で言いにくいんですけど……


じつはさっき、ボクは飼い主に捨てられたって話をしました。

でも……捨てられたのは、ボクだけじゃないんです……っ



あ? どーゆうこった?



い……妹が行方不明なんです!



行方不明だと!?



はっ、はい……!


み、みなさんにはぜひ……、

ボ、ボクと一緒に捨てられた、妹のミネをさがしてほしいんです……!




  おぉっと。こいつは厄介なトラブルだぜ……!























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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