第123話 正体不明の存在③

文字数 1,044文字





 悲劇は突然やって来た。



 ボクはいま、正体不明の存在に襲われている。







ウウウッ……!




 背後から受けた噛みつき攻撃。



 首根に牙を突き立てられて――



 怖くてパニックになって叫ぶ。



うああああああああああああああっ!




 ボクが絶叫したところで、相手は離れてくれない。



 むしろ悲鳴をあげるボクを黙らせようと、さらに首の圧迫を強めてくる。



ウググググ……ウググッ……!




 すごく、息苦しい……。



 首を押さえつけている相手の口がぐいぐい前に迫ってきて、呼吸がいっそう妨げられる。



 このままじゃ窒息死しちゃいそうだ……!



早く……どうにか、しないと……っ!




 そう思っても、ボクに特別な力はない。



 だけど、できる限りの抵抗を試みた。



ハアアアアッ!




 ……あぁ、ダメだ。



 戦いに不慣れなボクには、相手に噛みつき返すとか、投げ飛ばすだとか、そんな華麗な技は何一つ決められない。



 手足をバタバタさせて、がむしゃらにあがくのが精一杯。



 しかもそのせいで視界が左右に激しく振れて、酔ってしまいそうになる。



ふあぁぁぁあぁ~……!




 抵抗したら、より最悪な展開になっちゃった……!



 そもそもボクは車酔いするタイプで、他の猫よりも三半規管が弱いんだった……。



く、くるしぃよぅ……!




 痛いよりも、とにかく苦しかった。



 息ができないだけで、こんなに簡単にやられちゃうなんて……



 不意を突かれてひどい思いをするなら、ちゃんと警戒しておけばよかった……



 ふと脳裏に熊介さんの言葉が蘇る。



おまえみたいに外の世界を知らない飼い猫は、ボケッとしすぎなんだよ




 ……そうだよね。ホント、熊介さんの言うとおりだ。



 ボクがもっとしっかりしていたら、熊介さんも被害に遭わずに済んだかもしれないのに……



ナアアアアアアアァ――!




 自分の無力さを感じながら、やるせなさに(うめ)きだすと――



 突然、体がふっと軽くなった。



 ボクの首から背中にかかっていた重みが消えていく。



……?




 え、どういうこと……?



 何が起こったのか、サッパリわからない。



 けれども首を圧迫していた牙が引き抜かれて、あの世行きの危機から解放されたのは間違いないみたいだ。



フグゥ……




 脱力しきって、うつぶせに倒れ込む。



……ハァァ……ッ……!




 かすれた声をはき出し、虚ろな眼差しを足音のほうへ向ければ……



 視界に移り込む黒い影。


 

 ボクの首に噛みついていた猫が、風のように走り去っていく。



ハァハァ……

あ、あの猫の正体は……?




 その姿を捉えきる前に、正体不明の存在は闇の向こう側へと消えてしまった。





























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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