第106話 対話

文字数 1,252文字





 まさか小部屋に(ひそ)んでいるのが、さっき会ったガキどもだとは思わなかったぜ。

 


 せっかく見逃してやったっていうのによ。



オメェらはさっき、さらわれた妹が箱の中にいると言って、俺たちを(だま)したな!



ギョッ……!


マジギレ、ニャウ……!?



そのせいで箱に隠れていたクソ猫に襲われるところだったんだぞ!


オメェらがトウとリャクに脅されて、床にガラス(びん)を落としたって話も嘘なんだろ!?



……


……



黙ってねぇで、なんとか言えよ!








……わかった。

言うからキレないでよ


暴力反対、ニャウ



ハァ~、生意気なガキどもだぜ


んじゃ怒鳴らねぇから、きちんと答えろよ



脅されたって話は、まぁ噓ってゆうか、アレだよね


作戦、ニャウ



あぁ? 作戦だとぉ!



お、怒らないって言ったくせに!


有言不実行(ゆうげんふじっこう)、ニャウ……!



チッ!

わかってるよ、うるせぇな




 舌打ちしながら、俺はその場に腰を下ろす。



 敵意がないことを示すために、少し目を逸らしてやった。



 子どもたちはさきほどから台のようなものに乗ったまま、緊張した面持ちでこっちを見ている。



作戦などと悪知恵働かせるってことは、俺の仲間のヨウをヒモで釣るのも作戦(それ)だったんだろ


んじゃ、ヨウをヒモで釣ってどうするつもりだったんだ? 



それは……


なんていうか……



ハッキリ答えろよ



別に……。

ただ遊んでただけ


気晴らし、ニャウ




 ふたりの心理はシッポに表れていた。



 最初に出会ったときと違って、ハナっから疑いの目で見ているから、おかしな挙動が目につきやすい。



シッポの膨らみでバレてんぞ



おしりがカユいだけ


キレ痔、ニャウ



キレ痔て……。

んなどうでもいい告白はいらねぇんだよ




 冗談だか事実だか知らねぇが、そこをほじくっても無意味なので話を戻す。



オメェらはあのヒモを利用してヨウの興味を引き、俺たちの戦いに加勢させないつもりだったんじゃねぇのか?


それとも、ヨウをあの場に足止めしたまま、また頭上から瓶を落とすつもりだったか?



……


……




 猫たちの無言の姿勢に反して、シッポは激しい動きを見せた。



 怪しさ最大限をほのめかす上下運動と毛の膨らみ。



 どうやら図星らしい。



ということは、まだどこかに他の猫が潜んでいるのデスネ……!




 壊れたシャッターを跳び越えて部屋に入ってきたヨウが言う。



そのようだな




 上に視線をやって観察するが、この小部屋には天井があって廃工場内を見通すことはできない。



 もし敵が潜んでいるとしたら、屋根裏の死角か、それともどこか別の場所か――?



ところでオメェらの名前は?




 話題が変わったことに安堵(あんど)したらしく、子どもたちのシッポが落ち着いた状態になる。



メデア


イソルダ



いいか、メデア、イソルダ。

一度だけ警告してやるからよく聞け


ここは成猫せいびょうたちが争う危険な場所だ。

ガキはこれ以上関わるな 



……わかってるけど、そーゆうわけにはいかないし



なんでだよ?



事情があるから、ニャウ……!



事情?




 問いかけると、ふたりはヒモから手を離し、ふてくされた表情に深刻な影をまとわせた。































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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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