第87話 悲しい知らせ

文字数 1,377文字





 この足場の悪い廃工場内は、俺たちよそ者には不慣れだ。



 ただ移動するだけならなんてことねぇが、戦闘となるとそれなりに神経を使う。



 ところがホームグラウンドの紅にとっては、そんなこと問題にもならねぇ。



 足場が狭かろうが不安定だろうが、水面をスイスイ泳ぐように移動しやがる……。



そうか! 

そういうことか!


テメェ!

俺の体力を消耗させるため、わざと無駄打ちを繰り返させ、あちこち逃げ回っていたな!?



いまごろ気づいたか。

防戦にまわっていたのは、貴様の体力を消耗させるためだ


不慣れな足場での戦闘は通常よりも負担がかかる。

そのうえ多くの攻撃を仕掛ければ体力の消耗につながる


体が疲れれば動きにキレがなくなり、貴様の超高速猫パンチも速力・威力ともに衰えると判断したまでのこと




 たしかに俺の呼吸は乱れていた。



 実際、猫の持久力は犬に劣るとまで言われている。



 認めたくはねぇがそのとおりだ。



そうやって消耗させたところを突いてきたわけか


クソッ! 

体がバテてなければ、あんな攻撃よけられたのに!



フッ、悪魔・・を仕留めるのにふさわしい上策であろう



なにが上策だっ。

テメェらの思う壺だと思ったら大間違いだぞ!


体がバテたからって戦えねぇわけじゃねー!



強がっても無駄だ!

パワーダウンした貴様に勝ち目はない!



パワーダウンだと?

ナメるなっ! 

ちょっと疲れただけだ!


それに俺には守るべき仲間たちもいる!


みんなをこんなところに連れて来ちまった以上、俺がやられるわけにはいかねぇんだよ!








フン、仲間の存在が心の支えというわけか



そんな大それたもんじゃねーよ



ならば仲間が傷ついても平然としていられるか?



……どういうことだ?


まさかテメェ!

まだ何か仕掛けてやがるのか!?



フッ、知りたければ教えてやろう



たとえば貴様のいう仲間とは、あのマウティスのことだろう?



マウティスがどうかしたのかよ?



どうかしたもなにも、ヤツならすでに川に沈んだぞ



なんだとっ!?



フハハハハ!

この俺との戦いで消耗し、川底に沈んでいったのだ!



アイツが死ぬなんて考えられねぇ……!




 目の前が真っ暗になる。



 聞いた途端に体が脱力して、体内のエネルギーが一滴残らず抜け落ちていくようだ。



 握った手がだらりと垂れて、身構えているのもしんどくなってくる。



だがヤツは川に沈んだ。

藻屑(もくず)となり果てた姿を見たわけではないがな



そんな……!

マウティスがくたばるなんてあり得ねぇ……!



否定したければするがいい。

仲間の死は受け入れがたいものだからな



うっ……クソッ!




 胸を刺すような悲しみがこみ上げてきた。



 こんなところでフリーズしてたら敵の思う壺だってぇのに、頭がパニクっていうことをきかねぇ。



ちなみに、あの川にはすでに刺客を放っておいた。

とっておきの刺客をな



とっておきの刺客だと!?



ああ、そうだ。我が刺客の攻撃は非常に強力でな。

貴様の仲間には手に負えまい


いまごろ他の仲間たちも川底に沈んでいる頃だろうな



まさか、刺客はキンメたちに襲いかかっているのか!?



フフフフフ!

ねこねこファイアー組の力、思い知ったか!


闇の集会の歓迎を受けて、生き残れるものなどいないのだ!




 紅の哄笑(こうしょう)が悲しみに揺れるおれの心をいっそう震わせる。



バカな……!

アイツらがやられちまったなんて、嘘だろ……!?





 キンメ、テンダ。

 


 そしてマウティス。




 どうか無事でいてくれ――!





















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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