第31話 噂のお猫さん

文字数 1,543文字




 シッポをゆったりと左右に振りながら、副ボスはボスの問いに応じる。



オレの聞いた話によると……


近頃このへんを徘徊(はいかい)してる若いメス猫がいるらしいんすよ



メス猫?



そうっす。

いいニオイのするフェロモンを放っている、かなり魅惑的な猫だとかで



な~るほど。

オメェはそのメスの噂を聞きつけて、この土手にやって来たってわけか



はっはっはっ!

さすが親分。オレの魂胆(こんたん)なんてお見通しっすね



まぁな。

オメェもまだ若いんだし、青春の一つや二つくらいは必要だろ



ボスだってオレより若いじゃないっすか



笑わせんな。

俺にはボスとしての務めがある


いまは恋にかまけている場合じゃねぇんだよ



そ、そうなんですね……




 恋にかまけている場合じゃないなんて、すごく余裕のある感じだなぁ。



 現状、組を維持したり治安維持に努めたりで、いろいろ大変なんだろうけど……



 でもボスってすごくモテそうだから、その気になれば彼女くらい簡単につくれそうな気もする……。



んで、

そのメス猫ってぇのはどんなヤツなんだ?




 ボスが問うと、草むらに潜んでいた偵察猫(レコねこ)が葉先から顔をサッと出して答えた。



すごくいいニオイがするのであります! 


ですが遠目に見ただけなので、詳細を述べられるほどの特徴は掴んでおりません!



そうか! 

すごくいいニオイか!


いったいどんなニオイなんだろーなぁ……



ニヤニヤしてんじゃねぇよ



あ、あの……ちょっといいですか?



なんだ?



ふと思ったんですけど……、

そのメス猫って、もしかして、ボ、ボクの妹なんじゃ……!?



じつは親分。

オレもさっきからそれを気にしていたんすよ


新入りの妹と、謎の徘徊美猫(びびょう)が、同一猫なんじゃないかって



だから妹の話に興味津々だったわけか



そうなんっすよ


――で、親分。

もしそのメス猫が新入りの妹だったらどうなるんすか?



だとしたら、諦めろ。

新入りの妹は俺たちが連れて帰る



ぐっはぁーーーーーっ!

恐れていた事態が! 


オレの片想い、いきなり散る……!








なんだオメェ。

見たことねぇ相手に恋してたのかよ



はっはっはっ。

そりゃそうっすよ!


神出鬼没しんしゅつきぼつの美猫っすよ? 

もうハナシ聞いただけで胸キューンっすよ!



単純だなー。

まぁ、俺も同じオスだからわからなくもねぇけどよ



ボ、ボクもオス猫だけど、キューンとかよくわからない感覚だなぁ……




 初恋もまだだから、わからなくても仕方ないのかもしれないけど……。



とにかく、妹じゃなければオメェの自由だ。

告白でもなんでも好きにしたらいい



おぉぉぅっ!

まだ望みはあるっすね!




 副ボスの瞳がゆるやかな日差しを受けて、ハートを形づくっているように見える。




 ――ジロリ組の副ボスがウチの妹に恋してる――



だとしたらすごい状況だけど、じ、実際どうなんだろう……?


い、妹のミネが竹藪(たけやぶ)を出て、このあたりをさまよっていても、お、おかしくはないけれど……




 でも、ミネってそんなにいいニオイしてたかなぁ……?



まずはその、メ、メス猫の正体を見極めないと、ですよね……?



そうだな


オメェの妹か否か、姿を確認するため付近に潜んで相手が来るのを待つとするか



ちょ、直接話しかけに行ったら、ダメなんですか……?



やめとけやめとけ。

そいつは下策げさくダゼ



メス猫は俺らオスより警戒心が高けぇからな


行く手に猫が何匹もいるとわかったら、逃げちまうかもしれねーんだよ



な、なるほど……。

じゃあ周囲の草むらに隠れたほうがよさそうですね



気配をさとられないようにジッとしてるんだぞ



ワクワクするっすね



もしも妹だったら、どうしよう……!




 不安をかかえながら、ボクはボスと副ボスに続き、茂みの中へ身をひそめた。



 時折吹く春風が、背の高い草をさらさら揺らす。



 息を殺し、ドキドキしながら噂の猫の出現を待ち受けた。



























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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