第153話 受難の危機

文字数 1,553文字





 いつでも突き落とされそうな足場の狭いパイプの(はし)に追いやられて、ヨウは絶対絶命だった。



 けれども(くれない)はいま嫁のイザベラに意識が向いていて、ヨウのことは視界にない状態だ。



 そんなときは(すき)に乗じて逃げちまうに限る。



……




 そろーりそろーり……。



 ヨウのいるパイプの近くには、別の骨組み幾つか水平に伸びている。



 ヨウはちょっとずつ片手を動かして距離を測り、もう一方のパイプへ跳び移ろうと考えているようだ。







……



あの様子だと、紅はおそらくヨウの行動に気づいちゃいねぇな




 しかし、イザベラにはヨウの行動は筒抜けのはずだ。



 にもかかわらずイザベラはそれを(とが)めようともせず、再び組の存続に関する問題を紅に語りかける。



あなた……、

縄張り内をめぐるトラブルは由々しき問題よ




 イザベラは足元のガラス片をよけつつ前へ進み、紅を見上げて目で訴えた。



ジロリ組のマウティスは、さきほどわたしにこう言ったわ


もしもこのまま戦い続けるのであれば、ねこねこファイアー組に恨みを持つ者達を扇動すると――


そして、ねこねこファイアー組を徹底的に潰させるともいっていた



扇動だと……!? 

ふざけたことをっ!



それがただの猫ならば一笑(いっしょう)()すこともできる。

けれど、仕掛け役があのマウティスでは軽んじるは危険よ!


煽りを受けた猫たちによって、わたしたちは地の果てまでも追いつめられてしまうかもしれない……



バカバカしいっ!

恨みを持つ者達など、所詮は雑魚(ざこ)の集まりだろう


いざとなれば、おれの力で一掃してやる!



いいえ、大勢の力を(あなど)ってはいけないわ。

多くの猫を敵に回せば、いつ何時襲われるかわからないのよ


待っているのは、危険と隣り合わせの日々……


あなたはメデアやイソルダが、縄張り内を出歩いているだけで他の猫に襲われてもよいというの!?



なっ……!?



……犬も歩けば棒に当たるっていうけど、それって猫も歩けばフルボッコってことだよね?


不可避の暗殺、ニャウ



縁起でもないことを言うなっ



うにゅ……っ


ふにゅ……っ




 父猫に叱られて、メデアとイソルダはややシッポを膨らませて身を縮めた。



 その様子をイザベラは遠くから見つめながら、やり場のない溜息をはきつつ(たしな)める。


 

縁起でもないことを引き寄せてしまう原因を作ったのは、親であるわたしたちよ


親として、子どもたちを危険にさらすわけにはいかない


これから産まれてくる子どものためにも――!



っ……!




 身に衝撃を受けたように、紅はその場に硬直した。



 数秒ほど経ってから、ようやく冷静さを取り戻したのか反論する。



だが、せっかくここまで戦ったのだ。

いまさら敗北を()すわけにはいかん!



あなたの気持ちもわかるわ。

だけど……


無益な戦いを繰り広げても、犠牲は大きくなるばかりよ……!



……



なんか気づいたら、あたしたちの組のほうがピンチになってる……


受難フラグ、ニャウ



どのみちトウやリャクをはじめとする部下の略奪や暴行が本当なら、もう後戻りはできまい



そんなことないわ。

略奪した住処を返して被害者の猫たちに謝罪すれば、丸く収まるかもしれない



謝罪など通じるか!

猫の恨みは深い。謝った程度で済むはずがなかろう!



いいえ、話し合えばきっとわかってもらえるはずよ。

ボスであるあなたが、きちんと語りかければ――



バカげているっ……!




 紅はふっと首を振ってイザベラから顔をそむけた。



 すると目線が横に向いたせいで、ヨウの行動がバレてしまう。



貴様!

動くなと言っただろう!



Oups(ウップス)……!



ゲッ、やべえ!

あともう少しで逃げられそうだったのに……!




 俺は反射的に手足にグッと力を込める。



 すると――



 これまで反応の鈍かった前足に、たしかな手応えを感じた。


























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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