第59話 騙し合い

文字数 2,342文字




 さかのぼること数時間前。



 ウチは下っ端モブニャンを連れて、縄張り内のはずれにある畦道(あぜみち)を歩いていたのにゃ。







ごちゃごちゃした町も好きだけど、すっきりした田園もいいにゃねー



ここはとても長閑のどかですニャー。

人よりも猫とすれ違うほうが多いくらいですニャー




 まわりは緑あふれる畑ばかりにゃ。



 池もあって水源も確保されているし、食料も獲得しやすいし、鳥、ネズミ、カエルなんかの宝庫にゃも。



 つまり猫が歩くには最適の場所ってわけにゃね。



これだけ広大なら、新入りの妹が身を隠していてもおかしくないですニャー


だけど、それっぽいニオイもしないし、姿もさっぱり見当たりませんニャー



いるわけにゃいも



えっ!?



そもそも新入りの妹は飼い猫にゃよ?

とにゃると、必然的にその足は自分らの住んでた家のあるほうへ向かうはず


よほどのことがない限り、こんなところには来にゃいよ



じゃあ、どうしてここに?



さあにゃ~。

猫は気まぐれだからにゃあ~




 ウチはあたたかい日射しを浴びながら顔をコシコシと撫でた。



 集会で決定した以上、表立った目的は新入り猫の妹さがしにゃ。



 だけどウチの念頭に、その考えはないにゃ。



 そもそも迷子さがしにゃんて気乗りしにゃいし、他にもっと気ににゃることがあるにゃも。



くあぁぁぁあ~



マウねえさん、お疲れならあっちで休んでていいですニャ



大丈夫にゃよぉ。

サボりたくにゃったら、そうするにゃも




 いったい何のためにモブニャンとペアを組んだと思っているのにゃ?



 自分の意見に従いやすい下っ端といれば、好きなタイミングで休めると考えたからにゃも。



 つまりモブニャンとペアを組んだ理由の半分は、気ままに休みたいからにゃんだけど……



 じつは、もう一つ理由があるのにゃ。



 それは、このモブニャンについて調査しておきたかったからにゃも。



せっかくいい陽気だし、もう休憩に入ってもいいんじゃないですかニャー?


遠慮せずに休んでくださいニャー




 誘導がヘタにゃねー。裏があるってバレバレにゃ。



 さっきからモブニャンはやけに休憩を進めてくるにゃ。



 いったい、その理由は何なのにゃ?



 ウチは歩みかけた足を止め、モブニャンに問いかける。



ウチに休んでほしいってことは、このマウティスが隣にいると困ることでもあるのにゃ?



いえいえ、そんなことはないですニャー




 わずかな声調の乱れ。シッポの微妙な揺らぎ。



 にゃはー! 残念にゃね。



 他者は騙せても、このマウティスの目はゴマかせにゃいよ!



 モブニャンは何か後ろめたいことを隠しているに違いにゃいも。



にゅふふ。

もう少し揺さぶりをかけてみようかにゃ~



えっ!?



にゃんでもないにゃ。

それより、おなかすいてきちゃったにゃあ



ニャんと!? 

さっきチュールを食べたじゃないですか!



ふにゅう~。あれじゃ足りないにゃよ。

この美々しきボディを保つためには、もっと潤沢なエネルギーが必要なのにゃ


というわけで、モブニャン。

ちょっとコンビニ行って、ニャオ☆チュール買ってきてにゃ



コンビニに!?



うにゃ。

ここからちょっと行ったところに一軒だけあるのにゃ



むっ、無理言わないでくださいニャ!

人間みたいに買い物なんてできませんし、盗むのも難しいですニャ!



ふみゅ。

さすがにこの無茶ぶりに乗って、「じゃあ買ってきますニャ!」と走り去りはしないようにゃね


あるいは、その発想がなかっただけかもしれにゃいけど



えっ……?



ないでもないにゃ。

花粉で口がムズムズするだけにゃ




 とにかくこの下っ端猫は、ウチの目を盗んでどこかへ行きたがっている――それは間違いないにゃも。



 実際小腹がすいてもいるし、おなかを満たすついでに次の手を狙ってみるべきかにゃ。



 ちょうど畑の奥に、大きな池もあるしにゃ~。



にゃあにゃあ、モブニャン


コンビニがダメなら、ちょっとあそこの池でお魚捕ってきてにゃ



ゲッ! 

魚ですかっ……!?



なんにゃ、その嫌そうな顔は?

まさか魚が嫌いなのにゃ?



はい……



この国で魚嫌いの猫とは珍しいにゃね。

骨がノドに刺さりでもしたにゃ?



昔、青魚を食って、ひどい体調不良になったもんで……



それは悲惨だったにゃねぇ


聞いた話によると、不飽和脂肪酸を多く含むサバとかアジとかの青魚は、食べすぎると病気になることもあるらしいにゃよ



まさにそれが原因かもしれないですニャー



にゃるほどにゃあ。

じゃあモブニャンは魚を捕るだけで、食べなければいいのにゃ



えっ!?



早くウチのために、お魚たくさん捕ってきてにゃ~



いや、でも……、

時間がかかっちまいそうだし……



にゅにゅにゅ~? 

時間? 


にゃんか用事でもあるのにゃ? 



いえいえいえ。用なんて、まったくないですけどニャ。

ただ魚とりはあまり得意じゃないっていうか……



にゅふふ。

この付近の池はにゃ、春先になると魚が群れをなす絶好の穴場なのにゃ


つまり、魚とりの練習にはもってこいの場所というわけにゃよ



……にゃるほど……



野良猫生活は苦難も多いからにゃー。もしもの時に備えて、魚とりはうまくなっておいたほうがいいにゃ


なんならウチが捕り方を教えてあげてもいいにゃよ?



それはとてもありがたい話ですニャ


けれど迷子さがしのこともありますし、他のことにあまり時間を割いてる場合じゃない気も……



大丈夫にゃよぉ。 

おなかが減って狩りするくらいでサボッてるとは言われないにゃ


というか――

モブニャンがまわりにもらさずに黙っていればいいだけの話にゃ



ウヒャアァァア!

了解しましたニャッ!




 ウチの発言と迫力に圧されて、モブニャンはそそくさと池のあるほうへ駆けていく。



ふふん、愚かな。

このマウティスを相手に口先で逃れようなどとは甘いにゃね!


 


 ウチはニヤリと歪んだ笑みを浮かべ、あぜ道を横切るカエルをピシャッと前足で押さえつけた。



にゅふふ!

狙った獲物は逃がさないにゃよ……


























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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