第48話 思いがけない登場

文字数 1,772文字




 新入りの妹の行方はわからんままやけど、現場に残されたニオイは明らかになった。



 その正体がねこねこファイアー組だと発覚するや否や、ヤツらに恨みを持つヨツバが必死に(すが)ってくる。



お願いですから、ねこねこファイアー組を倒してください!



ボ、ボクからもお願いします!


妹を助けるためにも、ど、どうか悪い猫たちをこらしめてください……!



まだオメェの妹がヤツらにかっさらわれたと決まったわけじゃねぇだろ



それに、いきなり倒すゆうてもなぁ……


あの組を仕切っとるボス猫は、かなりの強者やで



ええっ!?

そ、そうなんですか……!



噂じゃ百戦錬磨の豪傑やとか。

手下も油断のならへん相手らしいわ



ヒェェェェ……!




 ビクついとる新入りを後目に、親分は思案顔のまま向かいにいるナニワ犬に問いかける。



なぁ、ダイゴロー。

オメェならすでに察してるはずだ


この新入り猫にしみついたニオイと、現場に残っていたニオイが同一で、コイツらが身内だってことをよぉ



まあな!

言わずと知れたことや



だったら新入りの妹がその後どうなったか、この辺りに残るニオイでわかるんじゃねぇか?



そればっかりはなんともいえへんなぁ



オメェほどの嗅覚の持ち主でもわからねぇのか



いや、おれが町を探索できれば不可能ではないかもしれんで


せやけど勝手にリード引きちぎって出歩いたら、オーナーに迷惑をかけてまうやろ。

だからこれ以上の謎解きには協力でけへんのや



犬らしい考えやな~。

ワイら猫ならセルフ散歩やゆうて、ひとりで町中歩きまわるで



猫ならそれでもええけど、犬はそうもいかんやろ



たしかに。

その体格じゃ、目立ちすぎる



体の大きな人間だって、ダイゴローと鉢合わせたら相当ビックリするんじゃない



即、通報案件デス



フハッ! 

物騒なこと言うなや!



まぁ、それだけデカけりゃ仕方ねーよな


ちなみにオメェの体重をネコ科に当てはめると、ピューマに相当するらしいぜ



ピューマ!






 ぴょ~ん!





 ワイの頭の中で、しなやかボディの大型猫ビッグキャットが跳びはねた。



ピューマに遭遇したら、秒殺されますがな!



う~む……、

さすがに俺でも勝ち目はねぇな



おれでも無理や




 そんな具合にみんなで好き勝手にしゃべってると、人の足音が近づいてきた。



ん?



おやおや~?

思いがけず、人間の登場やで!




 カメの店で買い物を済ませた人間たちが店を出て、こっちのほうへ歩いてくる。



 駐車場を横切る際に、ワイらに気づいたらしい。



 途端にパッと顔を輝かせ、跳ねるような声で言う。



あっ、猫だ!



すごい!

いっぱいいる~!



おっきな犬もいるわね~!




 店から出てきたのは三人の人間やった。



 全然体のサイズがちゃうから、親子やろか。



 三人そろってその場に足を止めると、好奇心いっぱいの目でこっちをじーっと見つめてきた。



みんなかわいいわね~



うん!



こんなにたくさん猫がいるとこ初めて見た~!



めっちゃ喜んでくれるのはええけど、猫って凝視されるの好きやないやで


とくに野良猫界隈じゃ、かなりの割合でガン飛ばしとると感じるねん



でも見つめる行為って、人間にしてみれば好き好き大好きアピールのつもりなんでしょ



そのようデスネ



せやのに、肝心の猫からは

「なんやワレ、ケンカ売っとんのかいな!」って嫌われる原因になるねんな



皮肉やわー



俺はいつも人の注目を浴びるから、さほど気にならねぇけどな



さすが親分さん!

肝が据わっとる!



ボ、ボクは怖くて無理だ……



あたしも人に見られるのは得意じゃないわ



視線に対する反応には、猫それぞれ個体差があるものだ



パッと()平気なようでも、内心キョドってることもあるからな



自分は常に平常心を心がけているつもりであります……!



ワイは人の目ぇには慣れたけど、外で知らん猫にガン飛ばされたらアウトやな


まぁとにかく、無用な警戒心いだかせてまうから気ぃつけなあかんで




 ワイがそうして伝わりそうもない忠告を終えたところで、人間側の動きに変化が起こった。



猫、触りたいー!




 子どもが一人、アスファルトの白線を踏み越えて、ワイらのほうへ寄ってくる。



親分さん、人がこっちに来てますけど



心配すんな。

俺が前へ出て、様子を見てやる



さすが親分さん!

頼りになりますわ~!




 親分は身をひるがえし、堂々たる足取りで人間のほうへ寄っていく。



 そこに早足で接近していく人間。



 思いがけない人間の登場に続き、思いがけない展開や。



妙なことになってきたで!
























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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