第27話 新入り猫は語る

文字数 1,613文字







 ボ、ボクは新入り猫。





 ネコの集会に参加したばかりの下っ端です。





 まだジロリ組の正式なメンバーになってもいません。





 もとは飼い猫でしたが、ある日飼い主にポイッと捨てられました。





 な、名前は、コウっていいます。




 コウって名前の由来は、「好き」って言葉の「コウ」の字から取ってつけられたそうです。





ふーん、そのわりに捨てられたんだ



たいして好きじゃなかったんだね




な、などとツッコむのは、心にグサッとくるので、あ、あまり言わないでおいてください……





 性格は、臆病だとよくいわれます。




 た、たしかにそのとおりかもしれません。




 ボクは気が弱く、ついでに言うとケンカも弱く、なんでもすぐ逃げ腰になってしまいます。





 おそらく、猫界の中でも、〝最弱(さいじゃく)〟の部類に入るでしょう。





 元飼い主である、ゲ――下々家ゲゲドウさん一家は、そんなビビりなボクの反応をおもしろがって、よくイジメてきました。




 たとえば子どもにシッポを掴まれて鼻をくすぐられたり、奥さんにたくさんの洗濯バサミでシッポを挟まれたり……




ゲヒヒヒヒヒッ!



シッポがブワッってなるとこ、見たーい!



アハハハハ!

あれは面白いわねぇ!





 ゲゲドウ()の人たちからは、枚挙(まいきょ)にいとまがないほどの――し、仕打ちを、受けてきたように思います。





 と、とりわけ旦那さんは、高圧的な人でした。





 旦那さんが、テ、テレビを観ているときに、その画面の前を横切っただけで、頭をピシャリ――! 




 と、叩かれたこともありました。




邪魔だ! バカ猫っ!





 す、素手でも痛いのに、箸や孫の手でバシッとやられるのは、カ、カンベンしてほしかったです……。




はわわわわっ!




 思い出したら、汗がダラダラ出てきてしまいました。



ハァハァ……ハァハァ……


き、気が弱すぎてすいません。

繊細すぎてごめんなさい……!





 こ、こんな弱虫な猫だから、捨てられたんでしょうか……?




 ボクにはもう、何もありません。




 養ってくれるご主人様も、住み慣れた環境もありません。




 い、一緒に暮らしていた、い、妹もいなくなってしまいました……。




 幼少の頃、お、親元を離れて以来、妹とは、ず、ずっと共に暮らしていたので、ひ、ひとりになると、すさまじく――ふ、不安です。




 居てもたってもいられなくなるくらい、さ、さびしいです……。




妹のことが、とても……心配です……!





 ボ、ボクたち兄妹(きょうだい)は体が小さいので、獰猛どうもうなカラスにクチバシで頭頂部(とうちょうぶ)つつかれただけで、頭をカチ割られてしまう気がします。



 

 だからあの独特な「カァー」という鳴き声が聞こえてきただけで、体はガタガタ、ふ、震えてしまいそうになりますし……



 ますます妹のことが心配で心配で、道端に妹の死体が転がっていたらどうしようと恐怖心にも駆られ、条件反射的に肉球から冷汗が、じ、じわ~っと(にじ)んできてしまいます。




はわわわわっ!




 想像したらまた変な汗が、い、いっぱい出てきちゃいました……。




 ジ、ジロリ組のボスは、こんなボクにでも協力してくれると言ってくれました。




 す、すごく頼もしいです。




 ボスはケンカが強そうなので、大きな声を出されるとビクッとしてしまいますが、根は優しくて、気の良さそうな感じがします。




 お、おしりを匂わなくたって、ボクにもそれくらいのことはわかるんです。

 繊細すぎるゆえにつちかわれた〝カン〟というやつです。




い、いつかはボクも、あんな立派な猫になりたいな……





 そんな無謀(むぼう)(あこが)れをいだきつつ、ボクはボスにつき従って、妹さがしの冒険にくり出すことになりました。




 途中でトラブルに巻きこまれて死にたくはないけれど、もし死ぬのなら死に場所くらいは選びたいな……




 ひ、悲観的な思いをぼんやりとかかえながら、ボスとはぐれてしまわないよう、その大きな背中を追いかけてボクは一生懸命歩いています……。

























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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