第178話 策士の導き③

文字数 1,538文字










 提案というキーワードに反応して、紅の耳がピクリと動く。



マウティスよ、貴様の魂胆(こんたん)は読めたぞ!



うにゅ?



貴様はこのおれに、下僕(げぼく)になれと言うつもりなのだろう!?



下僕――!?


奴隷、ニャウ!?



さすがにそれは……








にゃはは。

面白い提案ではあるにゃ


だけど見当違いにゃ。

そもそも命令に従わなさそうな猫はイラにゃいも



フンッ!

おれとて100万回頼まれようと、聞き入れる気はないぞ!




 不機嫌そうにはき捨て、そっぽを向く紅。



とにかく、いまは冷静に話を聞いてにゃ


紅ファミリーのみんなは、どこにも行くアテはないのにゃよね?



ええ、ありません



うん……


無、ニャウ




 だんだんと熱が冷めてきたようで、子どもたちの毛は普通のペタンコ状態へ戻っていく。



興奮が冷めてきちゃった


ボリュームダウン、ニャウ



それならそれでいいにゃ。

興奮しても、無駄にカロリーを消費するだけだからにゃ


とにかく、アテもないのは困ったにゃね~。

このままだと家族バラバラになるし、イイコトないにゃよ



そんなこと言われなくてもわかっている!



だったら状況を打開する策を考えないとにゃ~。

ノープランはよくにゃいも



フンッ!

かといって貴様のよからぬ策略にすがろうとは思わん!



よからぬ策略って、疑いすぎにゃ



 

 ウチは視線を移し、足元に広がる金属板の隙間から下の有様を観察する。



 闇に彩られた床に散らばる、無数のガラス片……。



たとえばの話にゃ、いまなら紅ファミリー全員をガラスの破片だらけの床へ突き落とすくらいわけにゃいよ



貴様……っ!



先行き想像すると、また全身がブワッてなりそう……!


すでに恐怖でシッポがブワッてる、ニャウ……!



まぁ落ち着いてにゃ。

このマウティスは優しさの(かたまり)で出来ているから、そんな横暴(おうぼう)なことはしないにゃ


混沌(こんとん)が過ぎ去れば平和的解決に尽力(じんりょく)する。

それがウチのモットーにゃも!








まぁ負傷の身ともなれば、おのずと警戒は高まり猜疑心(さいぎしん)は強まるもの。

けれど、教え(さと)す者を疑うのはよくないにゃねぇ


イザベラにゃんの言うように、戦いはもう終わったのにゃよ



だったら言え!

なぜ我らに手を貸そうとする!? 



理由はいくつかあるにゃ


まず第一に、路頭(ろとう)に迷って蛮行(ばんこう)に及ばれても迷惑だってことにゃ


治安は乱れるし、混乱を招くにゃも!



そのようなことはせん!



どうかにゃ~?

生活が困窮(こんきゅう)すれば、したくないこともしなくちゃならなくなるにゃよ~?


魚をネコババするくらいならまだしも、猫同士の共食いなんてされたら一大事にゃも



共食い……!?


デブはおいしく食べられてしまう、ニャウ!?




 青ざめるメデアに続き、戦々恐々(せんせんきょうきょう)とする小太りのイソルダ。



2つ目の理由は、イザベラにゃんが身ごもってるってことにゃね



えっ、わたしのことが理由に!?



うにゃ。

協力する一番の理由といってもいいにゃも


同じ猫として、産まれた子にまで不遇を味わわせるのは忍びないと思うからにゃ



マウティスさん……

産まれてくる子どものことを気にかけてくださるなんて……




 イザベラは感動したように瞳を潤ませ、ウチのほうへ歩み寄る。



 それから信頼の意を伝えるように、ゆっくりとまばたきした。



ぜひあなたのお知恵をお借りしたいです。

一体どのようにすれば、一家離散せず暮らしてゆけるのでしょうか?


さきほど申しましたように、わたしたちにそのような頼れる猫はいませんが……



いいや、そんなことはないにゃ



どういうこと?


謎、ニャウ



頼るべき存在は、身近にいるってコトにゃよ



頼るべき存在が身近に……?




 紅はウチの言葉をじっくりと咀嚼(そしゃく)するように言って、やや驚きを示した。




























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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