第133話 対決

文字数 1,718文字





 兄と弟――



 兄弟猫による戦いの火蓋が切られようとしていた。







フフフフ……。

どれほどこのときを待ちわびたことか




 偵察猫(レコねこ)の邪気がおぞましいくらいに膨れあがる。



背後にどす黒い瘴気(しょうき)が渦巻いてるみてぇだ




 それまで様子を見ていたくれないが偵察猫に指示を出す。



レコよ、思う存分暴れるがいい!




 紅と同じように傍観(ぼうかん)だった幹部たちが騒ぎだした。



おれたちも暴れるぜぇ!



血祭りにしてやるぅ!



バカ言ってんじゃないよ!



貴様らに勝利はない!



……だといいんデスガ




 上にいる猫たちの戦いが再開される前に、偵察猫が動きだした。



死んでもらうよ! 兄さん!



来い!




 偵察猫がガラクタの床を蹴る。



 華麗ともいえる跳躍で空を切っていく。



 着地早々、テンダを襲うのは拳の嵐。



 数秒のあいだに、十数回ものパンチが繰り出される。



おまえのせいで母さんは……っ!


兄弟たちも危険を避けて遠くに行っちまった……!

クソクソクソクソッ!




 感情的だが、狙いは的確だ。



 刺せば貫く錐のような、死の危険を秘めた攻撃の数々がテンダに降りかかる。



一見冷静を欠いているようでも、攻撃に無駄がねぇ。

徹底して相手の顔とか首とか、急所を狙ってやがる!




 足を負傷しているテンダには、とてもかわしきれない……!



はっはっはっ。

なかなか痛いぞ



だったら、もっと痛くしてやるーっ!




 偵察猫は()え、掲げた両手にさらなる力を込める。



じゃあ、その隙に乗じて――




 テンダは弾みをつけて後ろへ跳び退()くが……



ぐうっ……!

やっぱりジャンプは足裏の傷に響くな




 それでも痛みを(こら)えながら、再度攻撃の構えをとった。



うおおおおおおおっ!




 片腕を振って反撃に乗りだす。



バカめ! 貴様の拳など喰らうに値しない!

すべて受け止めてやるっ!




 バシバシバシバシバシッ!



 激しくぶつかり合う拳。

 互いの攻撃を拳で受ける、もしくは弾く、両者一歩も譲らない苛烈な攻防戦。



 スピードはほぼ互角だが、力はテンダのほうが上回っている。



 偵察猫は、その力を怨恨パワーで補って奮闘している状態だ。



フン!

さすが怪力無双と呼ばれるだけのことはある



おまえも相当なもんだぜ。

よくここまで成長したな



黙れっ!



いいや、黙らんぜ。

(おまえ)の成長は、兄であるオレにとって喜びなんだからよ



……っ!




 みるみる弟猫の怒りが膨れあがった。



いまさら兄貴ヅラするなぁ!


貴様には、必殺・忍びの一撃の威力を思い知らせてやる~~~っ!




 偵察猫は構えると、両手をテンダの顔に近づけた。



 手のひらを宙を漕ぐように振りはじめる。



むをっ!?




 ババババババッ!



 テンダの顔の前で、何度も何度も手のひらを上下させる。



 スピードが速く、激しい。

 両眼をじっと据えて観察しても、動作のすべてを捉えきるのは容易じゃない。



見ているだけで疲れてくるような超高速の動きだぜ




 つぶやいた直後、偵察猫はテンダに向けて片手をバッと突き出した。



ハアァッ!








 偵察猫の必殺技がテンダに肉薄する。



 切れ味の鋭そうな攻撃だ。



――!




 だがテンダも歴戦の勇者。



 負傷した足をその場に留めたまま、ひねりを加えて後ろへ上半身を傾ける。



 二足立ちのまま、体がクニャッとツイスト状態で折れ曲がる。



 上体を反ることで、正面から迫る相手の拳を器用にかわした。



なにぃ!?

二足立ちのまま、体をクニャッとツイスト状態に折れ曲げるとは……!




 偵察猫の言葉どおり、テンダは上体を反ることで、正面から迫る相手の拳を器用にかわした。



バカな!?

僕の渾身の一撃が――!



はっはっはっ。

オレはこう見えて体が柔らかいんだ


足を使って逃げ回らなくても、クニャツイストでおまえの得意技はよけられる



生意気なっ……!




 攻撃を回避され、今度は偵察猫のほうに隙が生じる。



テンダ、チャンスだ!




 だが――



 テンダは偵察猫に攻撃を仕掛けなかった。



 それどころか体勢を戻すと、相手をじっと見下ろして語りかける。



なあ、チータ。

オレのもとに偵察猫レコねことして来たのは、本当に復讐のためだけだったのか?



どういう意味だっ!?



本当は、オレに弟だと気づいてほしかったんじゃないのか?



なっ……!




 偵察猫は焦りの色を浮かべてその場に固まった。









































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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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