第91話 暴走猫

文字数 1,345文字








 唐突に放たれた拳。



 喰らったらふっ飛ばされるしかないその一撃を、転倒覚悟でどうにか後ろへ跳んで、スレスレのところでかわす。



 直後、ワイの代わりに打たれた青草の葉先が引きちぎられて宙に舞った。



ちょっ……!

いきなり死ねはあんまりですわ!


ウチら深いつき合いやないですけど、同じ縄張りシマの仲間同士ですやん!



ナカ……マ……?



そうです!

ワイらは仲間です……!



ヴヴヴヴヴゥゥゥゥゥゥ……ッ!


仲間ァァァァァァァァ……!




 仲間、という言葉に打たれたんやろか。



 そんなら、ジロリ組の(おきて)で訴えたら聞いてくれるかもしれへんと思い、真面目(まじめ)に語りかける。



テンダ兄さん、よう考えてください!


ウチらネコの集会の掟・其の四は、〝ケンカをしない〟ですよ!


そのルールに逆ろうてまで、あのメス猫に尽くす理由がどこにあります?



ヴッ……!




 お、効いとる効いとる。



 もういっちょ、ダメ押ししとこか。



それに同じメスやったら、ミミのほうが断然いいですやん



ミミ……



麗しの三毛猫でっせ!



いや……、

長女って条件は……譲れない……!



まだ言うてるんですか。

どうでもええことにこだわりすぎですって



こだわりは、そう簡単には捨てきれねぇ……!



……捨てとけ




 そもそもあのヤミミンは長女なんか?



 どーせそんなん知らへん状態で惑わされたんやろ。



……とにかく、おまえの言うことは、よくわかった……


おれは……この場を、去ることにする……




 ワイの指摘を無視して副ボスがこの場を去ろうと歩み出すと――



 ヤミミンが動いた。



ダ~メ!

逃がさないわよ!




 ヤミミンは副ボスの後ろから、自分の前足の毛をふーっと宙に吹き飛ばす。



 数本の抜け毛が風に流れて、真正面におる副ボスのもとへ運ばれていく。



ゲッ!

テンダ兄さん、離れて!



アッ!

この香りは――!




 副ボスが動くよりも、ヤミミンの毛が絡むほうが早かった。



 ヤミミンのニオイつきの毛が副ボスの鼻腔を刺激して、意のままに操ろうとする。



ヴホォ……!



いやいや、気持ちよくなっとる場合ちゃいますって!


さっさと毛を払いのけて、それ以上ニオイを嗅がへんようにいっそ息止めてくださいよっ



ンフフ、無駄よ




 得意顔のヤミミンは、サッと体勢を変えた。



 何をかます気か、ワテらのほうへ尻を向けてくる。



これこそ究極のフェロモン放出スタイル。

あたしのフェロモンを受けなさい!



誘惑のフェロモン♡




 高々とつき出されたおしり。



 シッポをツンと立て、無防備にさらされた丸出しの菊座(きくざ)



なっ……、

なんちゅう挑発的なポーズや!




 しかも動くものに目がない猫の習性を利用し、伸ばしたシッポをフリフリさせとる。



 究極というだけあって、四つん這いのポーズの威力は絶大やった。



 副ボスの視線は、あっちゅうまに釘づけになってもうた。



ヴォホォォォ~……♡



ウフフ、いいコね。

それじゃあたしの命令に従って、あのシマ柄の猫をやっつけなさい!



ヴガァァァァァッ!



 

 副ボスがワイのほうへ向き直りつつ()える。



 ギロリと血走った眼。むき出しの闘争心。



 暗闇で生肉(むさぼ)るのが似合う野獣そのものや。



あああああっ! 

またこのパターンかいな!


ワイのエサ化フラグ、不可避やん……!




 どうにもならへん状況に追いこまれて、ワイは絶望するしかなかった……。






















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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