第89話 異常事態
文字数 1,591文字
ワイに危機あり、副ボスに異常あり。
やけくそになりながら大声で訴えると……
鋭い牙が首筋を貫く直前で、動きがピタリと止まった。
ワイは起き上がって、危機的状況から脱するため必死に地を駆ける。
副ボスの動きにストップがかかったのは一瞬のこと。
再び副ボスは動き出し、猛スピードで追いかけてくる。
ワイがどんなに一生懸命走っても、パワフル&マッスルな副ボスには到底かなわへん。
野獣さながらのギラギラした両眼がすでに背後に肉薄しとる。
もし追いつかれたら、ワイは殺されるんか!?
ワイは懸命に走った。
一生分の力を使い果たしてもかまへんと心に誓いながら、懸命に地面を蹴った。
せやけど、この世は
それまでの頑張りも
後ろから一発、体当たりを喰らって地面に転がる。
いまのは体にズシーンときたで~!
地べたに
攻撃の手は止まって、全身がその場に
テンダ兄さんは、何かを必死に抑え込むようにぎゅっと目をつぶった。
まるで自分と戦っているかのようや。
まさか、さっきのトラップにあった糞尿が臭すぎたせいで、ブチキレてもうたんか?
いや、副ボスがそんなことでキレるわけあらへん。元々おおらかな猫やからな。
ウンコ臭いゆうてブチキレんのは、ウチの飼い主だけや。
そのときやった。
異様なニオイが
ワイは鼻を働かせるために、深く息を吸い込んだ。
脳に強く訴えかけるような妖艶な香り――
見上げたワイの瞳に、色っぽい風情を漂わせたメス猫が映った。
ボロボロの小屋の庇に、一匹のメス猫が佇んどる。
なんや、コイツ!?
これまた、とんでもない猫が出てきおったで……!
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