第89話 異常事態

文字数 1,591文字


 

 ワイに危機あり、副ボスに異常あり。



 豹変(ひょうへん)した副ボスの凶悪な顔がみるみる接近してくる。







堪忍(かんにん)してや!

ワイがなにしたっちゅうねんっ……!




 やけくそになりながら大声で訴えると……



ヴッ……ヴガガ……!



おやや?




 鋭い牙が首筋を貫く直前で、動きがピタリと止まった。



今のうちや!




 ワイは起き上がって、危機的状況から脱するため必死に地を駆ける。



ヴガァァァァァッ!




 副ボスの動きにストップがかかったのは一瞬のこと。



 再び副ボスは動き出し、猛スピードで追いかけてくる。



なんや、どーゆうこっちゃ!?


そもそも副ボスは味方やなかったんか!?

それとも気ぃでも触れて、頭おかしなったんか!?




 ワイがどんなに一生懸命走っても、パワフル&マッスルな副ボスには到底かなわへん。



 野獣さながらのギラギラした両眼がすでに背後に肉薄しとる。



アカン!

このままでは追いつかれてまう……!




 もし追いつかれたら、ワイは殺されるんか!?



いや、さすがにそれはないやろ~


………………………………


殺された挙句、骨まで食べられてたりして……








そんなの嫌やぁ~~~!


ワイはこんなところで、死にたないんや~~~っ!


 


 ワイは懸命に走った。



 一生分の力を使い果たしてもかまへんと心に誓いながら、懸命に地面を蹴った。



 せやけど、この世は弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)や。急激なスピードで接近してくる脅威を払うのは容易なことやない。


 

ヴガァァァァッ!



ちょっ――速いて!

見逃してやっ!



ガァァァァァァッ!




 それまでの頑張りも(むな)しく、早々と副ボスに追いつかれてもうた。



 後ろから一発、体当たりを喰らって地面に転がる。



フヒャァッ!




 容赦(ようしゃ)なく地に打ちつけられる体。



 いまのは体にズシーンときたで~!



 地べたに()いつくばったワイを狙って、副ボスは拳を振り上げる。



ななな、なんでやっ!?

どつく前に理由くらい聞かせてやっ!



ヴヴッ……!




 切羽(せっぱ)詰まって訴えると、またしても副ボスの挙動に変化アリや。



 攻撃の手は止まって、全身がその場に()いつけられたように固まる。



テンダ兄さん……?



ヴ……ッ……、

……逃げろ、キンメ……!



へ……?



……闘争本能に火がついちまったおれは、もう誰にも止められねぇ……!



闘争本能に火?

それってどーゆう――



ヴヴッ……!


ウグググッ……!




 テンダ兄さんは、何かを必死に抑え込むようにぎゅっと目をつぶった。



 まるで自分と戦っているかのようや。


 

なんやこの展開? 

さっぱり状況がつかめへん


そもそも、なんでいきなりテンダ兄さんの闘争本能に火がついたんや?




 まさか、さっきのトラップにあった糞尿が臭すぎたせいで、ブチキレてもうたんか?



 いや、副ボスがそんなことでキレるわけあらへん。元々おおらかな猫やからな。



 ウンコ臭いゆうてブチキレんのは、ウチの飼い主だけや。



ほな、一体なにが原因で、副ボスはおかしくなったんや?




 そのときやった。



 異様なニオイが鼻腔(びこう)をかすめる。



んん?

このニオイは……




 夜気(やき)に混じって、奇妙なニオイが運ばれてくる。



 ワイは鼻を働かせるために、深く息を吸い込んだ。



 脳に強く訴えかけるような妖艶な香り――



あっ! 

この感じ、知っとるで!


この妖しいニオイは――

発情猫のどぎついフェロモン臭やないか!



アハハ!

ようやく気づくなんて頭トロいんじゃない?



トロくないわ!

ワイの脳ミソは常に高速で動いてるっちゅうねん!


って、オマエ誰やねん!?




 見上げたワイの瞳に、色っぽい風情ふぜいを漂わせたメス猫が映った。


 

 ボロボロの小屋のひさしに、一匹のメス猫がたたずんどる。


 

アタシはヤミミン


ねこねこファイアー組じゃ、小悪魔ヤミミンって呼ばれてるわ♪



小悪魔ヤミミン……!




 なんや、コイツ!?



 これまた、とんでもない猫が出てきおったで……!



























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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