第99話 熾烈な戦い②

文字数 1,477文字





 紅とテンダの体当たりバトル。






下がれーっ!



ふぐっ……!




 勢いに押され、テンダの片足が一歩下がる。



 だが、負けずに踏ん張って耐えている。



テンダ!

敵の攻撃をいなして、反撃に転じるんだ!



うっす!




 テンダは俺の指示どおりに動いて反撃のチャンスを得ると、大口を開けて牙を()いた。



覚悟ぉ~~~っ!




 紅の喉元を狙って、テンダは噛みつき攻撃をくり出す。



喰らうものかっ!




 紅はサッと後ろに下がり、攻撃をかわす。



図体はでかいくせに、身のこなしは速えーな




 紅はふたたび突撃し、テンダに体当たりをかました。



邪魔だっ!



邪魔なのはそっちだっ!




 もし足場を失って落下すれば、ガラス片まみれの地獄が待っている。



 ふたりは数秒ほど取っ組み合った末、それぞれ後ろに下がって距離を取った。



まったく、とんだ闖入者ちんにゅうしゃの登場だな


貴様らの向かった川のほうには、あらかじめ刺客を放っておいたはずだが



刺客か。

おかげでとんでもない目に遭っちまったぜ


けどまぁその刺客なら、今頃きっとオレの仲間がうまく処理してくれるはずだ



すると貴様は、厄介な敵は他にまかせてこの場にしゃしゃり出てきた、というわけか



オレを必要としてるボスのために急いで()せ参じたまでさ


それともねこねこファイアー組のボスは、ジロリ組の副ボスを相手にできるほどの余裕も実力もねぇのかい?



戯言(ざれごと)はそこまでにしておけ


そんなにも死に急ぎたいのなら、この紅が相手をしてやる!



望むところさ!




 両者、睨み合って身構える。







ハアァーーーッ!




 先に攻めかかったのは、テンダのほうからだ。



 力を込めた拳が紅の顔面を狙う。



力押しの一手では、おれには勝てんぞ!




 パワーにおいてなら、テンダは負けてねえ。



 けれども紅のとびぬけた敏捷性(びんしょうせい)の前には、渾身(こんしん)の力をもってしても(くう)を切らざるを得ない。



貴様の攻撃など受けぬ!

代わりに反撃をお見舞いしてやろう!




 紅の手足が(たく)みに(ひらめ)いて、バシバシッとテンダの体を容赦なく打ち据えた。



はっはっはっ。なかなか痛いぞ



笑っていられるのもいまのうちだ!




 今度は紅の噛みつき攻撃だ。



 鋭利な牙が急所の首めがけて襲いかかる。



喰らってたまるかっ!




 テンダは体をグッと(かたむ)けて、その噛みつき攻撃をどうにか回避した。



ふぅー、危ない危ない




 横に倒れかけた姿勢を戻しつつ、テンダは軽く息を吐く。



 いまのところ目に見えるケガはなさそうだが、体の一部だったものが辺りに舞い散っている。



 フワフワと宙に浮く抜け毛は、場を華やかに装飾する雪のようだ。



ボス! いまのうちに体を休めるといいっす。

時間は自分が稼ぎますんで



すまねぇ



いつまでも時間稼ぎができると思うなよ!




 両者のあいだに、再度衝突の時が訪れようとしていた。



 ところが一転。



 何を思ったか、紅は戦闘離脱した。



フンッ!



はっはっはっ。

この期に及んで逃走か?




 逃走?



 不利な戦いをしてたわけでもねぇのに、そいつは変だ……



おい!

紅、どこへ行く!?



隙あらば撃つ、それが我が組の手法!



まさか――!




 紅はわき目もふらずに走っていく。



 その先には、ミミの姿が――!



ミミ! よけろ!



えっ!?




 俺の声に反応して、ミミは振り向いた。



 だがすべては遅かった。



 紅は空中に跳び上がると、後ろからミミの首にかじりつく。



よけられはせんぞ!



――はぐぅ!



 

 狙われた急所。



 鋭い牙がミミの首元に食い込む。



 攻撃の痕跡を刻む音が俺の耳に届いた。



ミミーーーーッ!





 ミミの首元から、いくつもの(かたまり)が飛び散った。


























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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