第42話 謎のニオイを探れ

文字数 1,883文字




 副ボスにフラれて、ミミはご機嫌ナナメ継続中や。



みんな、アタシにイチャモンばかりつけてきやがって!


アタシだってモテ猫になるために、筋トレとか努力してるんだからねぇ!



き、筋トレ……!



たしかにミミさんは強いデス



せやな。

武力においてなら、その努力は裏切ってへんわ



でも猫パンチの強さだけじゃ、モテないのよぉ~……っ!



ミミ、そう嘆くな。

オメェはもっと自分に自信を持て


その首元を見てみろ。

パールの首輪が似合うエレガントな猫なんて、そういねぇぜ?



――たしかに!



切り替え早っ!



そして迷わず同意しましたね



まぁ、自分の魅力を再認識してくれたならいい


ミミ、オメェも充分イケてる〝イケネコ〟だ!



イケネコ……!


ウフッ!

ウフフフフッ!




 たちまちミミの顔に水を張ったような潤いがみなぎっていく。



……いつもながら顔面チェンジ早すぎや。

おまえさんは阿修羅像かっ



あぁ? なんか言った~?



いや、別に……



ねぇ~、ボスゥ~


いっそのこと、アタシをボスのオンナにしてぇ~♡



ゲッ!



ちょっとなによ、そのゲッて反応はっ!

ひどいわねっ! 



ボス! 

だったらあたしを彼女にしてください……!



オマエも来るんかいっ!




 不意にヨツバとかいうメス猫が近づいてきた。



 ミミは必殺技の勢いで鋭いガンを飛ばし、相手を牽制けんせいしにかかる。



卑しいメス猫がしゃしゃり出てくんじゃないよっ!


シャーーーーーッ!



キャッ……!




 (ひる)むメス猫。



 そりゃビビるわな。



 ……というか、なんやこの三角関係トライアングルは。



 結局モテるのはボス猫なんかいな。



まぁ、ワイがメスでも選ぶのは親分さんやろなー




 てか普通は、メス猫めぐってオス猫同士が競うもんなんやで。



 肝心のモテボスはんは、面倒そうに気のないタメ息を()らす。



そうカッカするなって。

痴話ゲンカしてる場合じゃねぇだろ



ボスの言うとおりだ。

閑散(かんさん)としているとはいえ、ここは店の駐車場なのだから


これだけ多くの猫が集まっているところを人に見られれば、無用な注目を浴びかねない



インテリ兄さんの言うとおりや。

保健所なんかに通報されたら、かなわんわ



保健所!?



たとえばの話やで。

ジブン、いちいちビビりすぎや



すっ、すいません……




 新入り猫は首を引っ込めて縮こまる。



 まるでカメや、とツッコみたくなるようなヘタレっぷりや。



余計なことかもしれへんけど、そんな弱気なていじゃ永久にメス猫からモテへんで


もっとシャキッとしいや。

もう飼い猫やあらへんのやから



は、はい……。

おっしゃるとおりです……!




 ワイが新入り猫に忠告しとると、親分はインテリ兄さんに話しかけた。



ところでよ、新入りの妹の痕跡はどこなんだ?



あの植え込みの付近です




 インテリ兄さんは、みんなをこの駐車場の脇のほうへ誘導する。



 数本の細長い木のそばに、手入れされたモジャモジャな生垣があった。



 葉っぱの名前なんぞわからへん。猫からすれば、背ぇが高くて緑の壁みたいや。



 せやけど木の枝が雨風をしのいでくれるやろし、地面よりちょっと高いブロック塀に囲まれとるし、姿を隠すにはちょうどええ場所に見える。



この辺りでそれらしいニオイを感知しました



発見したのはオメェか?



そうです。

そのあと付近を捜索中だったキンメたちと合流し、ミミとヨウにも匂わせました



どうだった?



間違いないと思うわ



ワタシも自信アリマス




 ふたりとも得意げな顔や。



 こんな場面で役に立たへんワイは、おのずと肩身狭くなる。



鼻の利かへんワイには、ようわからんかったです



そうか。

んじゃ俺がニオイの正体を探り当ててやる



 

 親分は、黒い巨体を優雅に動かしながら生垣のそばに寄ってニオイを嗅いだ。



 艶やかな黒毛に覆われた端正な顔が夕焼けに照り映える緑を背景にして、ひときわ(みやび)風情(ふぜい)を添えとる。







ええ図やなー……




 ワイが見とれてると、親分はちょっと真剣な表情になってつぶやいた。



なるほどな。

そうきたか……


おい、新入り。

オメェも嗅いでみろ



ハ、ハイ




 親分とは反対に、新入りの動きは挙動不審そのものや。



 恐る恐る草木へ近づき、その根元へ顔を寄せ、落ち着かなさげに鼻の穴をピクピク動かす。



こ、これは……!




 新入りはその顔にあからさまな驚きをさらけ出した。



いやいや、ドラマの演出やないんやからリアクション芸はええねん


ひっぱらんで、はよ言うてや



そ、そんなつもりじゃなかったんですけど、すみません……!


え、えっと、その……、

このニオイを嗅いでわかったことは……




 不安げな胸中丸出しで語りはじめる新入り。



 結局、ハナシ引っ張っとるけどな……。






















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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