第163話 危険な挑発

文字数 1,425文字










 親猫の危機を回避させようと、一生懸命に願い出る子どもたち。



メデア、イソルダ……!




 胸を打たれたように声を詰まらせる紅。



ふたりとも……




 イザベラの瞳には、薄っすらと涙が(にじ)んでいる。



テメェら、戦いの真っ最中だってーのにファミリー劇場してんじゃねぇよ




 俺の言葉を受けて、再び警戒心が起こったのだろうか。



 イザベラは感情を(こら)えるようにグッと口元を引き締めると、強い口調で子どもたちを遠ざけようとする。



危ないから近づいちゃダメ! 

子どもは下がってなさい!



……っ


……っ




 姉弟(きょうだい)猫は一瞬言葉に詰まったが、口をそろえて反論しだした。



子どもだって戦えるもん!


お母さんやお父さんをぶったら許さない、ニャウ!




 メデアとイソルダは、キッと俺を(にら)みつけてくる。



はぁ~……さっきから聞いてりゃなんだよ。

別にオメェらの親をいじめてなんかいねぇぞ


何度も言うが、俺はジロリ組のボスとして、売られたケンカに対抗してるだけだ



ケンカだからって、無抵抗な相手を叩いていいわけ!?


野蛮、ニャウ!



それが戦いってモンなんだから仕方ねぇだろ!




 すると、メデアとイソルダは呆れたような表情になった。



 どこか(さげす)むような眼差(まなざ)しを俺に向けてくる。



そんなフツーすぎる言い訳が通ると思ってんの?



あぁ!?

フツーすぎるだと?



(ぼん)レベルの反論、ニャウ!



凡レベル……!?




 




だってさー、さっきから仲間のためとかいってるけど、ホントは相手をボコボコにしたいだけなんでしょ!?



んなっ……ことねぇよ!



そうは言いつつ野生の血の(うず)きには勝てない、ニャウ。

拳の力で究極の俺様アピール、ニャウ!



うるせぇな!

べ、別にアピってなんかいねぇし!




 と、反論してみたものの……



 いまの俺に断言できるほどの理性が備わっているのか疑問ではある。



 これまでの自分史(俺ヒストリー)からいって、力に溺れたことはねぇ。



 だが、様々な場面で相手をボコボコにしてきたのも事実だ。



 それがやりすぎだったのかどうか、俺にはわからねぇ。ただ本能のままに力をふるっただけで、悪気はなかったのだから。



強いことは、決して悪いことじゃねぇ。

偽りなく、仲間を守りたい気持ちはある――




 俺の怒りが沸騰したのも、仲間の存在があればこそだ。



 状況を置き換えると、コイツらも同じなのかもしれない。




 大切な家族を守りたい――




 その想いが、この猫たちを必死にさせている。



だったらオメェらの本気を見せてみろ


一方的に力を否定するより、自分たちの力で大切なものを守るくらいの気概(きがい)を示してみろよ!



え、あたしたちが!?



そうだ。子どもだって戦えるんだろ?

だったら、思う存分かかってこい!



そのような危ないことをさせられるかっ



んじゃ、みんなまとめて死んじまえ!



そんなっ……




 イザベラは俺の形相(ぎょうそう)(ひる)んだように息を呑む。



俺は自分の務めを果たすのみだ!


だが、無抵抗なのにボコられるのは気に食わねぇって言うから、チャンスをやるって言ってんだよ!



本当、ニャウ……?



クソみてぇな嘘はつかねーよ



……


……



なんだよ、ビビッてんのか?

俺にはイチャモンつけるくせに、オメェらは肝心の場面で攻撃もできねぇのかよ?








ふぬっ……!


ふにゃう……!




 悔しげに両手に力を込め、歯を剥き出すメデアとイソルダ。



口先だけのヘタレじゃねぇところを見せてみろ!

手加減はいらねぇ、全力でかかってこい!





























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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