第124話 自分との闘い

文字数 1,607文字




 正体不明の存在が辺りからいなくなると――



 ホッとする反面、今頃になって噛まれた首の痛みを強く感じるようになってきた。



うぅぅぅぅ……痛いよぅ……!

すごく痛いよぅ……!




 猫は痛みに鈍感って世間では言われてるみたいだけど、ちっとも同意できない話だ。

 だって、痛いものは痛いもん……。



 痛みに耐える辛抱強い猫もいるだろうけど、ボクには無理だ。



 目に涙は浮かんでくるし、いてもたってもいられなくて鳴き騒いでしまう。



うぅぅぅぅ~……。

ズキズキが収まらないよぅ……


熊介さぁん……!

ヨツバちゃぁん……!




 誰も何も答えてくれない。



 こんなとき、励ましてくれる誰かがいてくれたらいいのに……。



 結局、ボクはひとりぼっちだ……。



誰か助けてよぅ……


もう嫌だよぅ……。

家に帰って、座布団の上で丸まっていたいよぅ……




 そもそも、なんでこんなことになっちゃったんだろう……?



 妹が行方不明だから?



 ねこねこファイアー組が邪悪だから?



 それとも――



い、一番の原因は、下々道(ゲゲドウ)さんがボクを捨てたからだ……!




 下々道さんのことを思い出すと、ちょっとイライラする気持ちが湧いてくる。



 だけど、憎たらしいあの一家の顔はもうとっくに薄れてしまっていて、思い出すこともできない……。







 そんなボクを捨てたかつての飼い主よりも、ずっと鮮明に思い浮かぶ相手がいた。



 その相手は……ジロリ組のボス猫・プルートさんだ。







 ねこねこファイアー組のアジトに向かう途中、ボスが別れ際に残してくれた言葉を思い出す。







 ボクに授けてくれた言葉……。



 あのときボスは、ボクひとりをそばに呼んで語ってくれた。



……新入り。

オメェは外の世界をまったく知らねぇし、戦いには不向きだ


ねこねこファイアー組との戦いに参加したところで、足手まといになるのがオチだろう



で、ですよね……



だが俺だって、オメェを置いていきたくて別行動をしようと提案してるわけじゃねぇんだぜ



え、そうなんですか……?



そうだ。

オメェを危険にさらすより無事に生かす、考えたうえで決断したんだ



考えたうえの決断……。

ボ、ボクみたいな新入りのことを気にかけてくれているんですね



もちろんだ


オメェはまだジロリ組の正式なメンバーじゃねぇが、俺の縄張り内に住んでいた猫だからな。

雑に扱うつもりはねーよ



いろいろ迷惑かけて、す、すみません……



謝ってどーする。

野良猫ってやつは、いつトラブルに見舞われるかわからねぇんだぞ


たとえトラブルになったとしても、前向きに試練と思って受け入れてみろ



し……試練、ですか?



ああ。

護衛は熊介くますけに任せたが、いざってときはオメェがアイツらを助けるんだ



たたっ、助けるなんて……!?

ボクにはそんなこと、とてもできそうにありません……!



いいか、新入り。

ここは安全な家の中じゃねぇんだぞ?


どんなにひどい目に遭っても泣き言なんて言ってられねぇ。

最後に頼れるのは自分だけだ!



最後に頼れるのは、自分だけ……



そうだ。ひとりきりでも根性ふり絞って武張ぶばってみろ。

そうすりゃきっと、オメェの中で何かが変わるはずだ!



何かが、変わる……?



おうよ。

なんで俺がオメェにこんなこと言うか、わかるか?



えっと……


……………………


す、すみませんっ!

わからないです……!



なんだよ、わかってねぇのかよ


オメェには自分で思ってる以上に根性が備わっているんだぜ



エエッ!?

ボ、ボクに根性なんて……ないですよ!



そう自分を過小評価するなって


肉親とはいえ、妹をさがすためにそこまで頑張るのは、なかなかできることじゃねぇ。

オメェの心に立派な根性がある証拠だ



っそそ、そんな……っ、

褒めすぎです……!



褒めすぎじゃねぇよ。

俺はオメェの中にあるたくましいパワーを信じてるぜ


ピンチに打ち()つためにも――

新入り、オメェの根性見せてやれ!



ハイ……ッ!




 あのときはイイ気分になって返事しちゃったけれど……



 正直いうと、ボクはまだ自分のことが信じきれていなかった。

























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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