第86話 窮地②

文字数 1,908文字




 リャクの怒りを込めた拳がミミに向かって放たれる。



顔ごと砕けちまえーっ!



この美しい顔を傷つけさせやしないよ!




 ミミは体をスッと横に動かし、リャクの攻撃をかわす。



 その動きに危なげな様子はなく、むしろ余裕すら感じさせる。



 回避と同時に跳び上がって、リャクの頭上に平手打ちを叩きこもうと手をひらめかせた。







ってぇ!




 リャクは身を縮めてさらなるミミの一手を逃れると、バックステップする。



 互いに数メートルほど距離を開け、罵倒(ばとう)合戦になった。



っざけんな! クソが!



クソはアナタでしょ


その程度の実力でこのアタシとやり合うつもりなの?



うるせー!

空気読めねぇのかテメーは!



どうやら、バカは八つ裂きにされないとわからないようねぇ



相手をバカ扱いしてくるテメーのほうがクソバカだぜ!



ふぅん、言ってくれるじゃないの……!


どうやら地獄に突き落とされる覚悟はできているみたいねぇ




 いつ激しいバトルになってもおかしくないほど険悪な雰囲気だ。



 紅と対峙(たいじ)してる状態じゃチラ見くらいしかできねぇが、音だけでも状況はある程度把握できる。



 ミミがリャクと戦いはじめたので、インテリも動き出した。



貴様の相手はこの私だ。

ボスとミミの邪魔はさせないぞ!



ジロリ組の幹部か


おれたちのほうが実力は上ってことを教えてやるぜ!




 こうしてミミはリャクと、インテリはトウと戦うことになった。



 ヨウは落下したばかりだから、すぐに参戦できるわけもねぇ。けれども戦いに加わらなければ、巻き添いを食うこともないだろう。



 俺は正面にいる相手を睨み据える。



テメェと集中して戦うには悪くない状況だな



せいぜい力を振り絞って戦いを挑んでくるがいい




 だが、できれば戦闘前にハッキリさせておきたいことがある。



新入りの妹はどこに隠した? 

いいかげん教えろよ!



教えるものか!

切り札は最後までとっておく主義なのだ



ハッ! 

とんでもねぇドケチ野郎だな


だったら口を割りたくなるくらい痛めつけてやるぜ!




 相手に攻撃を喰らえるためには、接近戦に持ち込むしかない。



 おれは間合いを詰めるため、標的に向かってジャンプする。



砕けちまいな!








 超高速で繰り出されるパンチの連続。



 俺の猛攻が紅を襲う。



その攻撃は読んでいたぞ!




 紅は俺が攻撃してくることを見越して、わずかに後方へ退(しりぞ)いていた。



 戦いなれているだけに冷静で行動に乱れがない。



 俺の攻撃範囲をある程度見切ってやがる。



よけてばかりいるんじゃねぇよ!


ハァアッ!




 間合いを詰め、さらに拳をふるう。



 紅は応戦せず、俺の攻撃を注視しながら後ろへ下がっていくばかりだ。



オラ、どうした?

逃げ回ってねぇで、かかってこいよ!



フッ、貴様の退屈な攻撃なんぞすべてかわし切ってやる!




 ふてぶてしく豪語(ごうご)したとおり、紅は俺の攻撃をよけきってみせた。



テメェ……!




 俺がどんだけパンチを放っても、紅はこっちの攻撃範囲を読んで後ろに下がっていきやがる。



 さっきからその繰り返しなので、拳は(くう)を切ってばかりだ。



 これじゃあ紅の顔面に一発浴びせるどころか、体をかすめることもできやしねぇ。



その程度か。

(きょう)ざめだな!




 紅は身をひるがえし、別のパイプに跳び移った。



 間髪(かんぱつ)置かずにサッと駆けていく。



待ちやがれっ!




 俺も細い(くだ)の上へ移ると、負けずに全速力で走った。



こんなところで足を(すべ)らせてたまるかよっ!




 我ながら絶妙なバランス感覚。

 日頃ヒョウみてぇに木を上り下りしてる甲斐があったぜ。



 紅との間合いを詰めると、俺はふたたび片腕を突き出し、拳による連続攻撃を繰り出す。



今度こそ仕留めてやる――!



今度などない!




 俺は果敢に攻めかかった。



 だが、相変わらず紅に一撃を浴びせることができない。




 どうもおかしい……。




 攻撃を仕掛ければ仕掛けるほど、紅の俊敏(しゅんびん)さが増していくようだ。



 拳は的を打たずに宙ばかり滑る。



クソッ……!




 俺が攻撃をやめた途端――



 ついに魔の手が動き出した。



愚か者め!




 紅の拳が俺の顔面めがけて襲いかかってくる。



 いつもの要領で跳んでかわそうとしたが、体の反応が鈍く、よけきることができない……!



――!?




 紅の(てのひら)が俺の頬をガツンと打った。



 痺れるような熱い衝撃が顔じゅうに広がっていく。



クッ……この感覚……!


攻撃を喰らうなんて久しぶりのことで、すっかり忘れてたぜ




 勢いに負けて体がふらつく。



 懸命に(こら)えてどうにか落下を(まぬが)れるも、俺の心は安定を失いざわつきはじめている。




 なぜだ?




 なぜ、ヤツの攻撃をよけられなかった――!?



























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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