第29話 謎の猫の正体

文字数 1,478文字





フフン



こっ……怖いよぉ……




 まさか突然猫が現れるなんて……!



 いままで見知らぬ猫にいきなりタッチされることなんてなかったから、顔面蒼白の恐怖体験っていっても過言じゃない。



ちょっとおどかしただけでそんな怖がらなくてもいいだろ



そんなこと言われても……、

怖がるなとか、無理です……!



いきなり現れるから誰かと思ったら、テンダじゃねぇか



押忍(おす)、親分



おっ、お知り合いだったんですか!?




 驚きに目を白黒させるボクを落ち着けるように、ボスはにこやかな口調で言う。



知り合いもなにも、コイツは俺の子分(こぶん)なんだ



子分……?




 子分ってことは、ジロリ組のメンバーってことかな……?



 でも、さっきひらかれていたネコの集会に、この猫は来てなかったはずだけど……



親分、子分って言われると小物感がエグイっす


そこはバシッと一発、ジロリ組の〝副ボス〟って断言しちまってくださいよ



副ボスゥ!?



おうよ。

オレはジロリ組の副ボスのテンダだ




 子分――じゃなく副ボスのテンダさんは、太い腕をピシッと伸ばして道に座り直すと、ボスと向き合った。



 どちらも体が大きくて、(はた)から見ると犬みたいだ。







副ボスってことは、ボ、ボスの次に偉い猫ってことですか!?



んー……、

次に偉いかっていうと、ちょっと違うなァ



えっ、それってどーゆう……?



たとえると、親会社と子会社の関係みてぇなモンだと思うゼ



親会社と、子会社……?




 どうしよう……。



 せっかくたとえてもらったけど、サッパリ意味がわからない……。



ジロリ組はほぼ町全体を仕切ってるから、俺ひとりで管理するのは大変なのさ


だから統治エリアを分割して、テンダのような副ボスに管理させてるってわけよ



は、はぁ……




 あまりわかってないけど、バカと思われるのはヤなので相槌(あいづち)を打ってわかっているフリをした。



返事が生ぬるいな。

あんまりわかってねーだろ?



エッ……!?

そ、それは……その……



まぁいい。

とにかくジロリ組の縄張りは広いから、それを管理する幹部もいっぱいいるってことだよ



な、なるほど……!


ジ、ジロリ組には、ナンバー2のイ、インテリさんや、マ、マウティスさんもいて……、

さらに副ボスもいるってことですよね?



ああ。

インテリやマウティスは、俺の直属の部下だ


テンダは自分の部下たちと共に、俺を間接的に補佐する役割を(にな)っている


仮に俺の身がヤバくなったとしたら、ナンバー2であるインテリか、マウティスが俺の後を継ぐことになるだろうな



そ、そうなんですか……!




 広い縄張りに幹部がいっぱいかぁ……。



 ボスの座を狙って、幹部同士でライバル争いが起きないのかな……?



ところで、ボス。

コイツ見ねえ顔っすが、何者っすか?



元・飼い猫の新入りだ。

名はコウ


まだ集会に参加したばかりでな、組のことも縄張りのこともわからん下っ端だが仲良くしてやってくれ



下っ端の中でも、えらい弱そうっすね



はぅわ……!




 戦闘能力の低さを直球で言い当てられて、ボクは気恥ずかしさにうつむく。



なんでこんな弱そうなヤツ連れてるんすか?


オレがこの新入りの前足にじゃれてみたときも無抵抗だったし、確実に足手まといにしかならねぇっすよ



じつはコイツの妹が行方不明なんだよ



妹?



ああ。

おれはその妹の捜索を手伝ってるんだ


このへんをウロついてるかと思ったんだがよ、オメェ心当たりはねぇか?



はっはっはっ。

そんなもんあるワケ――



ハッ……!


親分!

その妹って、どんな外見っすか!?



あ? なんだよ急に。

やけに焦りまくりじゃねぇか



あ、いや……。

なんでもねぇっすよ




 彼はまたしても困ったように、片手でペロリと顔を洗った。




















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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