第62話 辛酸をニャメつくす

文字数 2,192文字





 紅の指示に従ってトウとリャクが廃工場から出ていったにゃ。



 するとモブニャンがふたりを追って、ボスファミリーのいる大部屋から出ていく。



ぐにゅにゅ……!

待てニャ!



おやおや~?

トウとリャクを嫌悪しているらしいモブニャンが、ふたりの後を追っていくにゃんて


これはトラブルの予感にゃねぇ。

さっそく追いかけるにゃも




 ウチは金属板の上を音もなく通り抜けた。



 足元は細長い骨組みだらけにゃ。



 狭い通路を進むと、その細い道を中途半端に覆う屋根の上へサッと跳び移る。



ちょっと地面が遠いけど、見えなくはないにゃね




 ぼやけた視界の向こう側には、トウとリャクに追いついたモブニャンの姿が。



幹部! 

待ってくださいニャ……!



ヤダねー



めんどー




 トウとリャクはナメきった返事だけして、瓦礫(がれき)の散乱したデコボコ道を進んでいく。



ぐにゅにゅにゅ……!


約束したはずですニャ! 



約束?




 モブニャンとワル猫たちのあいだで、何か取り決められていたようにゃね。



 トウとリャクは歩みを止めて振り返ると、薄笑いを浮かべてキツーイ発言をくり出した。



あのメス猫ならもう(あきら)めな



ヤミミンは、テメェみてーなモブ猫とはもう別れるってよ



別れるだニャんて……!

そんなこと言うはずが――



それがまじでそう言ったんだって



ヤミミンは、

「おれらといるほうが楽しい」とも言ってたぜー



ふみゅ……


どうやら痴情(ちじょう)のもつれのようにゃねぇ




 名前の挙がったヤミミンは、おそらくモブニャンと恋仲にあった猫のことだろうにゃ。



ぐ、ぐにゅうぅぅぅっ!




 トウとリャクがモブニャンに背を向けて歩き出した矢先――



この嘘つきめぇ!




 とうとうキレたモブニャンが行動に出たにゃ。



 怒りの拳を突き出し、トウとリャクの背後から跳びかかる。



勢いはまぁまぁにゃ。

でもスピードが足りないにゃ




 案の定、敏捷(びんしょう)なワルどもはスッと身をひねって回避した。



 あっけない幕切れにゃ。



 むなしい風だけが起こって、足元から砂塵(さじん)が舞っていく。



テメー、格下の分際でおれにケンカ売ったな!



売られたケンカは拳で返してやんよ!



ぐにゅう……!




 追いつめられたモブニャン。



 悔しげに爪の先端をグッと地面に押し当てながらも、敵の攻撃を恐れて身をこわばらせる。



ピンチにゃねぇ。

たぶん、パンチの一発くらいは喰らうだろうにゃ


でも、助けてあげにゃいも。

だってウチはなんでも助けるヒーローじゃないからにゃ~



 

 言ったそばから、トウとリャクの拳がモブニャンに襲いかかる。



ト~~~ゥ!



リャ~~~!



ンギャッ!




 真正面から二つの拳を浴びて、のけ反りながらはね跳ぶモブニャン。



 宙に浮いた体を制御しきれず、通路沿いの瓦礫に叩きつけられる。



ぃ、痛い……ッ!



だっさ。

そんなんだから女にも愛想つかされるんだよ



まだ寝足りねーなら、一生起きられない体にしてやってもいいんだぜ



ふにゅうぅぅぅぅぅ……!



せいぜい悔しがってろ。

バーカ!



バカは自分のシッポでも食って踊ってな!



ヒャッヒャッヒャ!



ウッヒャッヒャッ!




 下卑げびた笑いを残し、トウとリャクは道を闊歩かっぽしながら去っていった。



(ちまた)でかなりのワルといわれるだけあって、振る舞いが下品にゃねぇ



うぅっ……!

クソォ……!




 モブニャンは悔しそうにゃ。



 きっとプライドがバキバキに砕かれたに違いにゃいも。






 モブニャンはどうにか起き上がると、よろめく体を引きずって建物の外へ出て行った。



ふみゅ……




 ウチはそれを尾行することにした。



 ボスにゃんのもとへ向かったワル猫どもを追って、みんなと合流するのでもよかったけどにゃ。



 ま、ワルどもはほうっておけばいいにゃも。



 周辺に猫の気配がないところまで来ると、そっと背後に忍び寄りモブニャンに話しかける。



ジロリ組に潜入してせっせとスパイ活動までしたのに、さんざんにゃねぇ



ゲッ……!

マウティス姐さん、なぜここに!?



なぜって、モブニャンの後をつけてきたからに決まってるじゃにゃい



あっしの後を!?

じゃあ、あの廃工場にも入っちまったんですニャ!?



うにゃ。

すべて盗み聞きしたにゃも♪



ゲェェェェェェーーーーーーーーーー!




 あまりの衝撃に、はからずもお先真っ暗状態を顔面に描いてしまうモブニャン。



終わった……。

もうダメにゃ……。

猫ライフ、詰んだニャ……



だいぶショックを受けてるみたいにゃねぇ



フニャアァ~……。

木っ端微塵……

再起不能ですニャ……



まぁそう嘆かずとも、たいていのことは自分次第でどうにかなるものにゃ


〝根本的な問題が自分以外の場合〟は、なんとも言えないけどにゃ



こんなところで生き恥さらして、落ちぶれていくニャンて……




 ウチの意味深な発言にも、モブニャンはうなだれるばかりにゃ。



 今更だけどこのモブニャン、お世辞にも優秀とは言えないにゃ。気力、胆力、どう見ても平均以下でしかないにゃ。



 そんな猫が敵地に単体スパイとして潜入するにゃんて、ホントせん話にゃ。



 だからウチは、なぜ〝あのモブニャンがスパイに志願したのか〟ずっと気にかかっていたのにゃ。



 けれどもさっきのワル猫どもとのやり取りを聞いて、ようやく得心とくしんがいったにゃも。



ま、いきなりそこをつつく前に、順を追って説いたほうがよさそうにゃね


にゃあ、モブニャン。

その心の傷の根本的な原因を当てて見せようかにゃ?



ニャッ……!?




 驚き顔を向けてモブニャンは固まった。


























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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