第39話 ボス待ちしながらダメ出しトーク

文字数 2,239文字




 ワイはいま、カメの店っちゅうペットショップのすぐ近くにおる。



 ミミとヨウも一緒や。



 店の裏側にある駐車場で親分さんらが到着するのを待っとるんやけど、なかなか来いへん。






まだかいなー。

ええ加減、退屈になってきたで



たしかに遅いデスネー



ここから30分も離れた川沿いの土手まで行ったんだから、戻ってくるまでに時間がかかっても仕方ないわよ



せやけどインテリ兄さんの見立てじゃ、もう到着してもおかしないって話やったやんか



それはそうだけど……



What?

幹部の姿が見当たらナイデスネ



なんや、もう忘れたんかいな。

インテリ兄さんは、例の新入りの妹に関わる場所を調査中や



ah、ソウデシタ



それにしても、さっきはめっちゃビビったわ


インテリ兄さん、

「ニャー」のひと声でハト呼び寄せて、ボスのもとにやったんやで!


インテリ兄さんはホンマ、ボスに負けず劣ずらずの出来スギヒーローや!



ホント、すごいわよねぇ!



ワタシは後から来たので、ちょうどその場面を見逃してシマイマシタ



そういや、ヨウと一緒にペア組んどった下っ端は何してるん?



ヨウとペアを組んでたのは、茶色のモブニャンよね



彼なら幹部の近くにイマスヨ


不審者が来ないか、辺りを見張っているヨウデス




 みんなの視線が下っ端の猫に注がれる。



ニャニャッ♪




 モブニャンは店のそばにある亀の置物の下に手を突っ込んで、その下に何かないかと物色しとるらしい。



あれが見張りねぇ……



遊んどるようにしか見えへんで



デスネ……




 置物の下に潜んでいるのは大概が小さな虫ばかりやけど、たまにエサの粒が落ちとることもある。



 見つけたらラッキーやで。



ところで、そろそろ夕暮れ時も近いで。

ふたりとも家に戻らんでええんか?



今日はママさんの帰りが遅いのデス



ミミは?



ウチは夜9時くらいまでに戻れば平気かなぁ。

キンメのところはどうなの?



じつはな……ワイの飼い主、入院してもうてん



OMG(オーマイゴッド)!?



え~~~っ!?

どうして~~~っ!?



骨折や。

階段で足滑らして、ポキッと折れたんや



階段で足滑らして骨折ぅ!?



信じられへんやろ



うん……



階段で足滑らして骨折だなんて……


あまりにも(どん)くさすぎマスネー



せやろ。

けどそれが人間やねん。

ワテらと違って、運動神経からっきしなんや



ホントそうよね。

すぐ滑ったり、転んだりするし




 ミミは閑散とした駐車場を気取った足取りで歩いてみせた。



こうしてただ歩くだけなのに、足音もドタドタうるさいのよ。

なんで静かに歩けないのかしら?



巨体だからとちゃうか?



そうかしら? 

問題は体の大きさだけじゃなさそうよ


生まれて間もない子どもなんか、アタシと同じか、それより軽そうだったけど、四つん這いの状態でもバタバタうるさかったもの



たしかにソウデスネ。

ウチの飼い主さんはダンスが趣味なので、騒々しいときが多々アリマス



耐えられるくらいならまだしも、やかましいのは勘弁してほしいわ



あまり人間の悪口を言うのはよくないぞ



お、兄さん!




 駐車場の隅にある植え込みのほうから、インテリ兄さんが歩み寄ってきた。



かくいうワタシも、鼻をほじった手で撫でられるだけは許せなかったが



あーソレ、めっちゃわかりますわぁ!



汚い手で触ってくるのって、ある種、嫌がらせよね



ああいうのって、人間たちは気にならないんデスカネ?



気にせえへんとちゃう?

ウチの飼い主なんか、鼻ほじった手で平気な顔してパン食うてたで



フフッ、それは清潔を心がけている我らとて同じこと。

自分の汚れには鈍感なものさ



ワタシは自分の汚れも気になってシマイマス


……ペロン……ペロン……




 いつもの毛づくろいを始めたヨウをからかってやろうとした矢先のことやった。



 インテリ兄さんが賢そうな顔を道路のほうへ向け、ヒゲをピクリと動かす。



さきほどから妙なニオイがする……


気づかないか?



ハニャア?





 妙なニオイ言われても、ワイにはサッパリやった。



 ちなみにワイは鼻炎持ちやねん。猫でも鼻炎になるんやで。



 ミミやヨウは考え込むような真面目くさった顔をして、兄さんの問いに答える。



たしかに頭がぼんやりするようなニオイが漂ってキマシタ



なんとなく不快なニオイねぇ




 と言ってるあいだに、イベント発生や。



 見張りのモブニャンが道路のほうへ身を乗り出しながら歓喜の声をあげはじめる。



あっ! 来た来たっ! 

来ましたニャー!




 来たと言うたらアレしかない!



 ワイも通りのほうへ顔を向け、流れにノッてみた。



ホンマや!

めっちゃかっこええイケネコがおる!




 ワイの目は、視線の先におる黒猫のみを映していた。



 遠目のぼんやりした輪郭でも、ボスの存在感はケタはずれやった。



 艶やかな黒い毛がまばゆい光に照らされると、深みのある輝きが至るところに生みだされて、体が動くたびに躍っているみたいに見える。



 まるで夜の海を見ているみたいや。



 それだけで神々しいゆうか、漆黒の王者としての底知れないスケールを感じさせる。



 さすが……ボス猫!



待たせたな!




 親分はこちらへ歩みながら、クールな声で応える。



 その後ろにいるのは新入り猫。



 それよりやや前を歩いているのは、副ボスのテンダ兄さんのようや。



なんで副ボスがおるんや? 



さぁ……?

道で偶然出会ったついでに連れてきたんじゃない?



もうひとり、見慣れない猫がいるヨウデスガ……




 相手が徐々に近づいてきたので、さすがのワイでもニオイを嗅ぎ取れる。



アッ……!

この香りは……!?




 発情しとるメス猫やないかいっ!



 まさかウチの親分さん、とうとう行きずりのオンナに手ぇ出してしもうたんか!?


























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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