第77話 大事な仲間

文字数 2,036文字





 突如、俺たちを襲撃したねこねこファイアー組のボス・くれないは、去っていった。



張りつめていた空気が嘘みてぇに軽くなったな




 こんなさびれた廃墟でも、吹きつける春の夜風は心地いいほどだ。



 だが今後厄介な事態が待ち受けてるとわかっているだけに、みんなの顔つきは逆風ぎゃくふうに煽られたような不快感がにじみ出ている。



さらった妹のこと、なんにも教えてくれないなんてズルイわよ



ミミさんの言うとおりデス。

これでは敵の思う壺デス



そーだよな。

新入りの妹に関する手掛かりすら得られず、敵地にのり込まなきゃなんねーんだもんな




 そのへんにいたモブネコたちも紅が去ったときに逃げちまっている。



 情報を得ようにも、なんら手段がない。



ふぅーむ……


スンスン……



どうしました? ボス



いや、せめて妹のニオイを感知できねぇかと鼻を働かせてみたんだがよ


(ションベン)トラップが臭すぎてサッパリだ




 ついでに言うと、近くにいるインテリも泥臭い。



 紅の不意打ちのせいでああなっちまったんだから責めるつもりは一切ねぇが、これじゃどんなに足音に気を遣ってみても気配バレは確実だろう。



ニオイとなると、ワタシは足手まといですね




 言わずとも弱みを察したインテリ。



 自分でせっせと舌を動かし、毛に付着した泥水を拭いはじめる。



ワタシも手伝いマス




 ヨウは率先して腰を上げ、インテリに近づくと体の掃除・・を手伝いだした。



すまない



いいんデス。

ワタシの特技はこんなことくらいしかアリマセンカラ




 穏やかに言って、ヨウはインテリの耳元の汚れを丹念に舌で(すく)う。



 日頃から手入れし慣れてるだけあって舌づかいに無駄がなく、泥汚れはみるみる落ちていく。



あら、アタシの出る幕がなさそうなくらいキレイになってきたわね



いや……、

ミミは見ているだけでいい



なによ、照れちゃって。

アタシたちは仲間でしょ。オスもメスも関係ないわ


みんなでしたほうが早いから、アタシも手伝ってあげる



……すまない




 ミミはインテリに顔を寄せると、片側の頬をペロリと舐めた。



 ミミのおかげで灰色に染まった毛が、本来の白さを取り戻してゆく。



みんながひとりのために一丸となって協力する。

微笑ましい図だな!




 って、にこやかに言っちゃいるが、涙腺が刺激されちまいそうだぜ。



俺も手伝うぞ!

こんなときこそ上下関係にこだわってる場合じゃねぇしな!



エッ……! 

そんな……おそれ多いです……!



遠慮すんな。

じっとしてろ




 俺はインテリの後ろに回り込むと、手の届きにくい頭のてっぺんを舐めてやった。



私のような手下のために、ここまでしてくださるなんて……!



気にするな。

オメェは舎弟だが、それ以上に俺の大事な仲間だ



大事な仲間……!



そうだ。仲間ってやつには隔たりがねぇ。

みんな同じってことだ


猫社会に(ルール)はあっても、俺はできる限りそれに縛られたくはねぇのさ




 まぁこんなこと、普段は言わねぇけどよ。



 結構マジで思ってることなんだぜ?



……このご恩は、一生忘れません……!




 感激したように瞳を潤ませるインテリ。



 が、さすがに涙をこぼすわけにはいかないと思ったようで、周りをはばかって顔を伏せる。



 俺はインテリの心情を察して、軽い口調で言った。



んじゃ、今度なんかうまいモンでも食わしてくれよ。

もちろん俺だけじゃなく、ミミとヨウにもな!



わぁ、楽しみ♪



おいしい食べ物、大歓迎デス♪



ええ、必ず……!



おう、期待してるぜ!




 インテリの胸にアツイ決意が宿るのを感じ、俺は笑顔で応えた。



 それからしばらくのあいだ、みんなでインテリの毛づくろいに(いそ)しんだ。





 熱心にやった甲斐あって、インテリの身にまとわりついていた不純物はだいぶ取り除かれた。



よし、もう充分だろ



ボス、ありがとうございました!



ようやくインテリちゃんらしさが戻ったわね



だいぶクリーンになりマシタネ



ミミもヨウも協力してくれて助かった。

感謝してもしきれないくらいだ



ウフフ♪

どういたしまして



役立ってよかったデス


 


 インテリ、ミミ、ヨウ、みんないつになく表情が晴れ晴れしている。



 萎えちまった元気もすっかり回復しているみたいだ。



 これも仲間を想う気持ちのおかげだな、きっと。



さてと――。

んじゃ、そろそろ工場内に突っ込むぜ


オメェら、覚悟はいいか?



イイデスヨ



オッケーよ



ボス。

少々気がかりなことが



ん?



まだキンメと副ボスが戻っていません



そういえば遅いデスネ



キンメの体には、もっと強烈なモンがついてるからな。

掃除・・に時間がかかってるのかもしれねぇ



なにしろクソだものね



哀れデス……



まぁキンメにはテンダがついてるから心配ねぇだろ


テンダは俺に勝るとも劣らない怪力の持ち主だ。

ケンカにも慣れてる


よほどのヤツが現れねぇ限り、やられることはねぇはずだ



そうね。

きっと大丈夫よね



承知しました



んじゃ、先に廃工場へのり込んで、敵を蹴散らそうぜ!



Let's go!



ゴーゴー!



どこまでもお供します!




 俺たちは地面を踏みしめ、堂々と敵の待ち受ける闇の本拠地へと突っ込んでいった。


























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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