第205話 愛ゆえに

文字数 2,004文字








 まるで自分が一番偉いとでもいうような、ふてぶてしい表情だ。



 両目をカッと見開き、タイコーは診察台から親子を見上げる。



ガン!


ガン!


ガン!



タイコーのヤツ、すげぇ目で(うった)えてるぞ



ものすごい(あつ)を感じますね



ありゃいったい何を訴えてるんすか?



なんだろうな。

食い物か、それとも……




 俺が言い終えるより先に、タイコーは持ち前の太い声で意気揚々(いきようよう)と主張する。



朝陽(あさひ)よ、そなたは我が下僕(げぼく)じゃ


下僕なら(あるじ)が何を所望(しょもう)しているか、当ててみよ!



当てるって……、

んなことできんのかよ。

相手は人間だぞ



()ニャり!


たとえ相手が人間でも、真意を()みとろうと努める気持ちがあれば、以心伝心(いしんでんしん)は可能なのであーる!



それ、ホントっすか?



本当だとしたら、スゴイですね!




 すると目力アピールを受けた朝陽は、無理難題(むりなんだい)をフッかけられたことをわかっているかのように首を(かし)げた。



ココちゃん、どうしたの?



ニャンと!?

言葉が通じている……!?



ココちゃん、診察台の上に乗ったらダメだよ




 朝陽はタイコーの体に両手を()え、床へ下ろそうとする。



なんだよ、全然伝わってねぇじゃねーか



(フン)オォォォォォォッ!

我は退()かんゾォォォォォォォッ!


早く我が意図を汲みとるのじゃーーーーー!




 丸々した体に力を込め、その場に踏みとどまろうとするタイコー。



あれ、退かない。

どうして?



もしかすると、構ってほしいのかしらね



違ぁぁぁぁぁぁぁう!


我を単なるかまってちゃんと一緒にするでニャーーーーい!



あ、シッポ振ってる



勢いが強いからイラ立ってるようね



えぇ~、機嫌悪いんだ……



それでも下僕かぁぁぁ!

鈍いぞぉぉぉぉぉ!


我は、そなたを(いた)わってやると言っているのじゃーーー!




労わる?



ん?

殴り飛ばすの間違いじゃねぇの?



言うことが暴力的ですよ



ストレスを感じた後は、猫を()でる。

これぞ我の考える究極の癒し!


さぁ、我を()でるのじゃ!




 タイコーはずーんと胸を()らし、アゴの下を()けと言わんばかりにクイッと上げる。



そっか!

撫でてほしいんだ!



ふふ、そのようね




 親子そろってタイコーの体に手を触れ、ゆっくりと撫ではじめる。



おーーー! 

伝わってるじゃねぇか!








 朝陽と篤子(あつこ)は、タイコーの体毛を一本一本(いつく)しむように丁寧(ていねい)に触れている。



不思議だよね。

猫を撫でてると気持ちが落ち着いてくる



猫とか動物には、(いや)し効果があるのよ


猫と触れ合ったり、アイコンタクトをするだけで、ストレスを抑制(よくせい)するオキシトシンが分泌(ぶんぴつ)されるから



そのオキシトシンって、わたしの体からも出てるの?



オキシトシンは、男女関係なく誰でも分泌されるわ


さらにオキシトシンには食欲抑制や脂肪分解にも効果があるの。肥満薬としての研究も進んでいるそうよ



へぇ。

猫とコミュニケーションをとるだけで、そんなにたくさんの効果が得られるんだ



すごいことよね



うん!


ありがとう、ココちゃん!

ココちゃんのおかげで、気持ちがフワ~ッて軽くなったよ



フォッフォッフォッ。

苦しゅうない、苦しゅうない。ゴロゴロ……




 タイコーは(のど)を鳴らしてご機嫌だ。



ふふ、きっと朝陽のことを心配して寄ってきてくれたのね




 篤子も朝陽もタイコーを見つめながら、とても満足そうに目を細めている。



 俺には人語のすべて理解することはできねぇが、簡単なやり取りから要点を(とら)えることくらいならできる。



心配して寄ってきてくれたって……、

なんか都合よく解釈(かいしゃく)されてる気がするんだが



まぁ、いいんじゃないんすか



これはタイコーの(たく)みな人心掌握術(じんしんしょうあくじゅつ)なのです



(いや)しいことを言うでない。

すべては愛のなせる技じゃ!



愛ぃ!?



そうだ。

我の中にも、この者達の中にも、愛はある



意味がわかるような、わからんような



そなたはボス猫じゃ。

たとえばボス猫が組の者達を仲間として大事にするのも愛ゆえの行い



なるほど、そういうことか!




 俺なりに愛ってモンがちょっとわかったような気がした。



 誰かを思いやる気持ちが〝愛〟なんだ。



 すると、そのやり取りを見ていた熊介(くますけ)が苦しげに愚痴をこぼす。



あっしはいつまで放置されなきゃならないんですニャ……?



アッ……!




 ウッカリしてたぜ。



 相手をのことに常に気にかけてなきゃいけないんだとしたら、俺の愛はまだまだだ。



 それに比べて、タイコーはいつもあんなふうに人間の行動を見極めて行動しているんだとしたら、なかなかのモンだぜ。



 猫と人間が共に暮らすことで(はぐく)まれた愛の深さに、感心しないわけにいかなかった。





























ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色