第198話 猫の下僕②
文字数 2,101文字
タイコーが激怒した直後のことだった。
下僕というだけあって、タイコーのことを気にかけてるようだ。
その場に腰を下ろし、
タイコーは俺たちを一喝すると、体の向きを建物のほうへ変えつつ熊介に言い放った。
熊介の体が
またたく間に死ぬ気さながらの猛スピードで芝生を駆けだした。
俺は熊介を追いかけるが、なかなか逃げ足が速い。
熊介のほうが先に動いていたこともあって、すぐには追いつけそうにない。
ところが――
熊介の足が、庭を脱する直前でピタリと止まった。
それまで飛ぶように芝生を駆けていた熊介だったが、体が地面に縫いつけられたように固まってしまった。
一人の人間が物陰から跳び出して、熊介の行く手を
大急ぎで身をひるがえそうとする熊介。
けれども、相手の動きのほうが速い。
人間は持ち手のついた
網の中でジタバタもがく熊介。
しかし網は破れない。そのうえ熊介の体に隙間なくかぶさって、上からがっちりと押さえこんでいる。
説明するタイコーの表情は、激怒など無かったもののように涼しげだ。
タイコーはのそのそ歩みながら、熊介のほうへ近寄る。
それを自然と追いかけるかたちで、朝陽がタイコーについていく。
一方母親は自分の子に視線を移すと、呆れたような口調で言った。
朝陽は小屋のほうへ走っていく。
一般的に、病院を好むヤツはそうそういない。
俺もそうだが、熊介も例にもれず病院嫌いのようだ。
絶望的な表情を浮かべる熊介に、タイコーは怪しげな笑みを浮かべて言う。
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