第213話 不安の波
文字数 1,876文字
ボクがボスたちに思い出話を打ち明けているあいだに――
お医者さんと子どもは、四角いモノに目を向けながら言葉を交わしている。
あの四角いモノは、ボクの家にも似たような代物が置いてあったから、ちょっとだけわかる。
本よりちょっと大きくて、画面がピカピカしてて、電気で動いていて、コードを噛んだら危ないやつだ。
お医者さんが真面目な顔でボクを観察する。
じっと見つめられるのは苦手だけど、
お医者さんは、四角いモノを持って部屋を出ていった。
ホントに大丈夫かな……?
ボクはよく下外道さんに叩かれていたから、名前を聞くだけで心が不安一色に染めあげられてしまう。
まるで見えない恐怖に縛りつけられたみたいに、体が
ほどなくして、奥の部屋から電話の音が聞こえてきた。
トゥルルル……
トゥルルル……
子どもがボクの頭に触れる。
こっちを気遣うような優しい触り方。毛を
全然悪い心地はしない。
けれどもボクはいま、気が張っているから
相手は落ち込んだような顔をして、手を引っ込めてしまった。
どう返せばいいのかわからず、ボクはうつむく。
タイコーの言うとおりだ。
ボクは何事においても器用な猫じゃない。
人に甘えるのも下手だったし、しくじりばかりが目立った。
ボクより出来の良い妹のほうが飼い主さんたちにかわいがられた。
でも……
結局、その妹もボクと共に捨てられた……。
やがて電話の音が消え――
奥の声から聞こえてくるのは、人の声だけになった。
お医者さんと、電話の相手とでしばらく会話が続いた。
でもお互いに談笑する感じじゃなくて、途中に長い沈黙を何度も挟み、そのたびに空気がピリつくような感じが強まっていく。
ボクはゴクリと息を呑んだ。
相手の声はかろうじて聞こえるけれども、何を言っているのかはわからない……。
子どもが診察室の入り口から身を乗り出してたずねる。
通話が終わると、お医者さんは受話器を置いて、その場に
冷静な口ぶりだけど、声が動揺している。
ボクはますます不安の波に襲われて、肉球から汗が
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