第210話 猫に不可能はない

文字数 2,076文字





 ボクはいま、とある動物病院の診察室にいる。



はーい、終わったよ! 



おつかれさま~。

おとなしくて(えら)かったね~! 



……




 人間たちがボクの体をナデナデする。



 元飼い主さんよりも触り方が優しい。



 そのせいか触られて嫌な感じはしないけど、ちょっと残念なところもある……



……クサイ!




 この人たちの手とか体とか、なんだかもう室内全体に独特のニオイが(ただよ)っている。



 同じニオイがボクの体からもプンプンしてるし……。



うぅ……、

な、なんだろう、このニオイ



あ?

何か言ったか?



あ、いえ……。

ボ、ボクの体……ク、クサくないですか?



……くせぇな




 窓の外側にいるボスが軽く鼻腔(びこう)をピクピクさせて答える。



 すると、地面からジャンプしたインテリさんがボスの(となり)にひょいと着地した。



気持ちはわかるが、新入り。

ここは病院だ


病院には様々な薬品が置かれている。

薬には猫になじみのないニオイがするものさ



た、たしかに、なじみのないニオイです……


で、でもボク……、

このニオイ、知っているような……?



家に消毒液でも置いてあったんじゃねぇの?



そ、そうなんですかね……


と、ところでこの人たちは、なんでボクみたいな猫を助けてくれるんですか?



変わってるっていうか、物好きなんだろ


じつは数年前に、タイコーがこの家に()みつくようになってから、猫助けをしてくれるようになったんだよ


一時期は先代ボスも世話になったしな



……そ、そうだったんですか



ああ。

野良はケンカ傷が絶えねぇからよ




 ボクは改めて人々を見つめる。



 その視線に気づいたのか、人間の子どもがボクをあやすように頭をポンポンしてきた。



このコ、さっきの野良猫さんよりおとなしいね



うん、人慣れしてる感じはあるよね



もしかして、誰かに飼われてたのかな?



どうかしらねぇ。

そういう可能性も無きにしも(あら)ずだけど……




 診察台にいるボクを観察しながら、考え込む二人。



 そのやり取りを見ていたボスが、(かたわ)らに(たたず)むインテリさんに問いかける。



なんて言ってるんだ?



新入りが誰かに飼われていたのでは、と疑っているようです



へぇー、察しがいいな



えええ!?

人の言葉を全部理解できるんですか!?



インテリは元飼い猫だからな。

それにズバ抜けて頭が良いから、全部じゃねぇけどかなりの人語(じんご)を把握してるんだぜ



ボクも元飼い猫だけど、どうにか覚えた単語を聞き取るのが精一杯……っ








 個体の能力差を見せつけられて、愕然(がくぜん)とした直後だった。



 部屋の入り口から謎の声が響いてきた。



フォーッフォッフォッ!

ニャるほど、そういう事情であったか!



だ、誰――!?



我はタイコーにゃり!



ヒェッ!?




 すごい迫力だ。



 佇まいだけで絵になるような猫だけど、顔圧(がんあつ)がスゴイ。



 色合いのおしゃれなシッポを左右に揺らして、室内に入ってくる。



あ、あれが、噂に聞いていたタイコーさん……ですか?



そうだ。

先代ボスの母猫のタイコーだ


てか、タイコー。

なんでいちいち診察室から出ていくんだよ



処置のたびに診察室から出るように言われるのでな、みずから率先(そっせん)して去るようにしているのじゃ



衛生面や猫同士のトラブルなどを考慮してのことでしょう



なるほど。

熊介が別室に移されたのもそのせいか




 熊介さんは手当てを受けた後、すぐ他の部屋に運ばれたと聞いた。



 ひとり言なども聞こえてこないから、たぶん疲れてぐっすり寝ているんだろう。







それに処置中は薬品を扱う。

あのニオイは好かぬゆえ、薬品の使用中は退出することにしているのじゃ



……だとすると、ボ、ボクのニオイも……気になりますよね?



うむ。クサイ!



はわっっっ!








まぁまぁ、そう(なげ)くでない。

ほんの一時(いっとき)の辛抱じゃ


それより新入りよ、そなたは何者じゃ?



え、えっと……、ボクはジロリ組にお世話になっている、新入り猫で……



()ニャり。

我が聞きたいのはそういうことではない



じゃ、じゃあ……一体……?



そなた、捨て猫だな!



えっ!?

そうですけど……ど、どうしてボクが捨て猫だとわかったんですか!?



そなたは(おのれ)の口で〝元飼い猫〟と言っていた


人に飼われていた猫が飼い主のいない野良猫となる――

理由を考えるに、人間に捨てられたと判断するのが妥当じゃ


そなたのようにオドオドしている猫が、みずから脱走するとは思えんからな



ス、スゴイ!

そんな簡単に見破るなんて……!



ニャフゥゥゥゥゥ!

我に不可能はニャいのだーーー!




 本当に不可能はないのかも……。



 そう思わされた瞬間だった。










どもー!

突然しゃしゃり出てきた作者代理のアイ・キャットでーす


野良猫って、結構判別が難しいんですよね


外を歩いている猫さんに出会ったとき、野良猫かなと思ったら飼い主さんがいることも。

逆も然りです


トラブル防止のためにも、外飼い猫さんには首輪の着用をオススメします


首輪にセーフティ機能があると、安心ですよ。

首輪がどこかに引っかかっても、一定の力がかかると外れてくれるそうなので



それでは皆様、ごきげんよう~




























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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