第201話 試行錯誤
文字数 1,871文字
――考える猫。
猫がどれほど頭を使って考えていたとしても、きっと人間には伝わらないだろう。
だが俺は今、あらゆる細胞に働きかけるように呼吸を深くし、脳を活動させている。
これは猫同士の抗争じゃねぇ。もう戦いは終わったんだ。
しかも相手は俺らにケンカをふっかけるどころか、恩のある人間たちときてる……。
熊介は朝陽に近づくと、まずは上目遣いで相手に警戒のまなざしを送った。
朝陽は、熊介の視線に気づいてないようだ。
深々と溜息を
引き続き母親に向かって切々と語りはじめる。
それを目にした熊介は、覚悟を決めたようにキュッと口元を引き締めた。
両眼は朝陽をじっと睨むように見据えたまま、そろ~りと首を前へ伸ばす。
恐る恐る、ゆっくりと。まるで獲物に忍び寄るかのような慎重さでじっくりと距離を詰めていく。
緊張で息を呑んだ直後、熊介のこわばった顔がクニャリと動いた。
必殺のニャンかわアピール!
ついに熊介は、人間の手に顔回りの毛をスリッとこすりつけた。
さて、人間の反応はというと……
目を細め、歯をのぞかせて笑い合う人間たち。
驚きながらも俺の目は、異変を感知してその対象を捉えている。
なんてこった!
だんだんと熊介を見つめる朝陽の顔が曇りがちになっているじゃねぇか……!
猫のかわいい仕草で言い合いをやめさせる作戦が成功したのも束の間、再び場はダークな雰囲気に呑まれたのだった。
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