第208話 思いがけない不意打ち

文字数 2,092文字




ここからは視点を変えて、再び新入りのコウの出番となります



き、緊張しっぱなしですが、頑張ります……!





 インテリさんに案内されて、ボクは町を駆け抜け、タイコーの家へとやって来た。



フゥ……。

ようやく合流できた



そ、そうですね




 ボクはインテリさんと(へい)を跳び越えて敷地内へ入り、建物のそばにいるボスたちのもとへ近寄っていく。



ご苦労だったな、インテリ



おつかれさん



いえ、お役に立ててなによりです




 インテリさんは足を止め、窓際の台に(たたず)むボスと副ボスを見上げながら答えた。



 ボクはインテリさんのやや後ろに立つことにした。



 インテリさんはジロリ組の幹部だから、ボクが前に出るのは図々しい気がして(はばか)られる。



あ、あの……、

熊介(くますけ)さんの具合は……どうですか?



心配はいらねぇよ

ケガを手当てしてもらったからな



よ、よかったぁ……!

じゃあ、もう大丈夫なんですね!



ああ。

それよりオメェのほうこそ平気か?


姿が見当たらねぇから、兄妹そろって行方不明になったかと思ったぞ



し、心配かけて、すす、すみませんでした……!



謝るな。

オメェが無事ならそれでいい



ボス……!




 ボクはまだジロリ組の正式なメンバーでもないのに心配してくれるなんて……。



 ボスは優しい。(ふところ)も広い。



 胸がジーンときて、目にはしっとりと涙が浮かんでくる。



オレもおまえさんが生きててくれてホッとしたぜ


じつはうちの弟がやらかしちまったって、ずーっと青い顔してたんだよ



えっ?



はわわっ……!




 ボクは気づいていなかった。



 ボスと副ボスの後ろに、偵察猫(レコねこ)のチータさんが隠れていたのだ。



 チータさんは、大慌てで叫びだす。



突然ですが……あのときは噛んですみませんでした~~~っっっ!



あっ……いえ……




 ホントに突然だ。



 チータさんは謝りながらすばやく台から跳び下りた。



 それからボクの足元に平伏するようにしゃがみ込む。



ホントにごめんなさい……!




 チータさんがねこねこファイアー組の刺客だったことは、インテリさんから聞いている。



 壮絶(そうぜつ)な戦いの末、兄のテンダさんと兄弟の(きずな)を取り戻したことも――。



ま、まだ傷は痛みますよねっ?



だ、大丈夫です。

ちょっとは、痛みますけど……




 嘘だ。ちょっとどころじゃない。

 ホントは痛い。皮膚が焼けたみたいにジンジンする。



 きっと以前のボクなら、もっと大げさに痛い~って騒いでいたはずだ。



 だけど、ボクは変わった。



 ジロリ組のみんなと出会って、いろんな経験をしたからだ。



 もっと付け加えて言えば、ボクは元々弱すぎる自分が好きじゃなかった。



 ボスみたいに、強くて、かっこよくて、しっかり者のキャラに少しでも近づけたらいい――



 そんな願いが心のどこかにある。



ボ、ボクのケガはそれほど深くないので、き、気にしないでください



気にしないわけにはいきませんよ。

僕のせいで、こんな目に遭わせてしまったんですから……




 ボクの首の後ろの傷跡をチラチラ見ながら、チータさんは気まずそうにうつむく。



ここまで来るのも大変だったですよね。

家に到着したときも、息が上がっていたし




 うわ、バレてた!



 情けないし、恥ずかしい……



ボ、ボクは運動不足なこともあって、体力がないんです……。

だから、すぐ……い、息切れしちゃって……


ふ、不甲斐(ふがい)ないっていうか、なんていうか……



ずっと室内で暮らしてたんじゃ、運動不足になるのも仕方ないですよ




 チータさんはあちこち移動するのが得意な偵察猫だから、鼻で笑われるかと思ったけれど、案外同情的だ。



ふにゅ……



チータの言うとおりだ。

俺ら野良猫じゃライフスタイルが違うもんな



聞くところによると、近頃の飼い猫事情では、猫の運動不足によるデブ化が進み、病院などで〝肥満〟を宣告ケースが増えているそうです



肥満か……








まぁ、あまりに太りすぎるのも深刻だけどよ、ちゃんと動いてる飼い猫なら問題ねぇんじゃね?



健康リスクを考慮するなら、適正体型を心がけたほうがいいでしょう。

それには適度な食事量と、運動が必須なのです



やっぱり適度な運動は必要だよな



う、うちは……家の中を走ると、う、うるさいって叩かれたので……



走っただけでひっぱたくのかよ。

最悪だな



それじゃマトモに運動もできないっすね



ひどいですね!

優しさの欠片もない人間は、ペットを飼わないでほしいです!



……




 みんな怒ってる。



 ボクに共感してくれてるんだ。



 しかもチータさんは敵だったのに……。



 ボクの飼い主だった人達よりも、ずっと理解ある存在に感じられてくる。



そういや、話は変わるけどよ



……?



ヨツバはどうした?



えっ!?



新入りを捜しに行って、再会したんじゃねぇのか?



え、え、え、えっと……、

それが……その……




 それ以上先を語ることができず、僕は口ごもってしまった。



 すると、インテリさんが見かねたような顔をして話に割り込んできた。



じつは新入りが彼女に告白したのですが、フラれてしまったのです



うっはっ!

先に言われた……っ!








 思いがけない不意打ちだ。



 ボクはショックを受けて、目も口も全開したまま固まるしかなかった。























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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