第209話 相手の気持ち
文字数 1,536文字
ボクはヨツバちゃんにフラれた。
それを自分の口から打ち明けるよりも先に、事情を知っているインテリさんに言われてしまった。
うん?
言いにくそうだったから代わりに伝えたのだが、いけなかったかね?
あ、当たり前ですっ!
ま、まだ、心の覚悟が……定まってなかったのに……
そう恥ずかしがるなよ。
気持ちはわかるが、よくあることだぜ
そうだそうだ。
オレだってこれまでいろんなコに相当フラれてんだ
ふ、副ボスみたいに強い猫でも、フ、フラれるんですね……
そりゃフラれるさ。
強くても、強くなくても、相手の好みに合わなきゃフラれる。そんなモンだぜ
メス猫は僕たちオスよりも、相手を冷静に見極めようとする傾向にありますね
強くなくとも、性格が良ければフラれにくいのかもしれません
で、でも、ひ弱なボクがフラれたってことは……、
性格もダメだったってオチにつながりますよね……?
いや、そうとも限らねぇぞ。
たとえ好みのオスでも断ることもあるって、マウティスが言ってたからな
どうしてだろうな。
そうやって断っておいて、相手の根性を見極めようとしてるんじゃねぇの?
きっと相手の本気度を調べるための〝駆け引き〟っすよ
うーん……。
むしろ、あのマウティスにアタックをかけるオス猫がいる事実のほうが衝撃的ですね
ヨ、ヨツバちゃんは……、
ひとまず、れ、恋愛は後回しにして、か、家族と再会したいって言ってました……
そうか。
ヨツバは、ワル猫どものせいで色々振り回されただろうからな
頃合いを見計らって、また告ってみろよ
そーだよ。
一度や二度フラれたくらいでヘコんでる場合じゃねぇだろ
で、でも……ヨツバちゃんなら、ほ、他にいい相手が見つかっても、おかしくないし……
んなもん知るか。
ウダウダ言ってたって何も始まらねぇぞ
相手が好きなら、じっくり時間をかけてでも、気持ちが伝わるまでめげるな!
じつを言うと、ボスがくれたアドバイスはボク自身も思っていたことだ。
たとえばボクはまだ野良猫になって日が浅いから、ロクに狩りもしたこともない。けれど、その過酷さはなんとなくわかる。
獲物が獲れないからって、すぐ諦めてばかりいたら、生きていけるはずがない。
たぶん、好きな相手と向き合うことも同じだ。
忍耐強く、辛抱強く、ときにへこたれても、前を向いて励んでいかなきゃいけない。
だって諦めてばかりいたら、きっと後悔するから――。
そんなふうに思いながら、ボクは顔を上げた。
ふと気づけば――
窓辺に人間が立っていて、ボクのほうを見ている……。
噛まれちゃったのかな?
傷は浅そうだけど、痛そう……
ほうっておいたら死んじゃうかもしれないし、助けてあげようよ
そうね。
せっかく動物病院まで足を運んでくれたんだし、サッと手当てしますか
すると、窓の内側で話していた人間たちが頷き合った。
背の高いほうの人がボクを見て、ニッと笑みを見せる。
何が言いたいのかはわからないけれど、敵意はなさそうな感じがする。
あっという間の出来事だった。
ボクはなんだかよくわからないままに人間に捕まって、手当てを受けることになった。
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