第214話 猫の呪い?

文字数 1,416文字





 お医者さんは診察室に戻ってくると、頭を軽く抱えながら説明をはじめた。



下外道(ゲゲドウ)さん、引っ越し先への移動中に事故に()ったって



えっ、事故……!?



高速道路を車で運転中、ハンドル操作を誤って壁に激突したらしいわ



うわぁ……、

死ぬレベルだよ、それ



どうにか死なずには済んだみたい


下外道さんの代理で電話に出てくれた看護師さんの話によると、病院に運ばれて一命はとりとめたそうよ



そうなんだ……。

ホント大変なことになってるね



まさに大惨事よ


ちなみに下外道さんの車には妻子も同乗していてね、一家全員重傷らしいわ



……最悪だね。

死んじゃうのかな?



かろうじて踏みとどまっているみたい。

でもかなりケガがひどい状態だから、キレイに回復するか危ういところね



顔に傷跡とか残っちゃうってこと?



否定はできないわ



想像するだけで、怖くなってくる……




 小さな子はドア口に立ったまま、自分の体を抱きしめるように両手を組んだ。



 身を縮め、視線を床に落としたのも束の間――



 突然、何か思い立ったように顔を上げる。



ねぇ、お母さん。

わたし、ふと思ったんだけど……



うん?



その事故、猫の呪いじゃない?



まさか~




 お医者さんは笑ったけれど、すぐに表情が硬くなる。



 笑い飛ばそうとして失敗したみたいだ。



 二人は恐ろしいものを見るかのようにボクのほうへ首をギギギッと動かした。



……?



おいインテリ、どーゆうこった?



あのゲゲドウが事故に遭いました 



えええええっ!

下外道さんが事故に!?



話によると、重症のようだ



マジかっ



そ、そんなぁ……!



うろたえんなよ。

ヤな飼い主だったんだろ



で、でも、一応、下外道さんには子どもの頃からお世話になってるし



はっはっはっ。

ひどい扱いを受けたんだし、ザマーミロと笑ってやればいいさ



わ、笑って楽しむ気には……



ちなみにあの二人は、ゲゲドウの交通事故が新入りの呪いによるものではないかと恐れているようです



呪い!?



フォッフォッフォッ。

なかなか愉快な発想じゃな


呪いの力を(あなど)るものは地獄を見るのだーーー!



人間社会では、(いにしえ)より猫の呪いが恐れられていますからね



猫の恨みはコワいのです








ボ、ボクは、決して呪ってなんか……



と言いながらも、心の中で呪ってたんだろ



ちょっ――

へ、変な冗談は、やや、やめてくださいよぉ



おとなしいヤツに限ってオソロシイっていうからな~



だから、の、呪ってませんってば……!



ま、いいじゃねぇか。

猫をイジメた挙句捨てた飼い主の末路は、超絶悲惨だったってことで



そうっすね



少し気が晴れた気がします



身から出た(さび)じゃな



……




 ボクは、心のどこかで飼い主さんが迎えに来てくれるかなって期待していた。



 ひどい飼い主に違いはないけれど、憎悪するほど嫌いだったわけじゃない。



 たまに撫でられると、戸惑いを感じながらもうれしかった。



 だからボクは、あの家から脱走したいとは思わなかった。




 ただ、愛されたかった……







 だけど、それが無理なことはわかってる。



 下外道さんは、ボスたちの言うとおりの人だから。ボクらを捨てたことを後悔もしなければ反省もしないだろう。



 あの家の人たちの頭にあるのは、自分と自分たちのことだけだ。ボクは家族の一員じゃないから気にかけられもしない。



ボ、ボクはこれからどうすればいいんだろ……




 住む家もない。



 妹は行方知れず。



 憂鬱(ゆううつ)をはき出したくて小さな声で呟いたけれど、気分は晴れず途方に暮れるしかなかった。
























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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